第9話女子高校生にゲームの操作方法を説明される俺0

「すごいね。スライム倒せたじゃん。それで、この後どうなるの?」


 そう俺が女子高校生に尋ねるのである。すると、女子高校生は黙ってテレビの画面を指さした。そのしぐさにうながされて俺がテレビの画面を見ると、そこにはついさっきと同じように『リトライ?』と表示されている。


「どういうことなの? スライム倒せたじゃん。なんで『リトライ?』なの」


 その俺の質問に、女子高校生はやれやれといった感じで答えるのだった。


「だから、これは練習モードなんですって。タイトル画面で、隠しコマンドを入力したからできるようになったんです。コマンドは『上上下下LRLRBA』ですよ。おじさんの世代には有名なコマンドらしいですけど、大丈夫ですか? 覚えられましたか、おじさん?」

「ああ、『上上下下LRLRBA』だね。よくあるやつだよ。それにしても、その練習モードができるようになる隠しコマンドも、『マジカルアタッカー』の神様に教わったの?」

「そういうことですよ、おじさん」


 神様が『上上下下LRLRBAで練習モードができるようになるよ』なんて言っている姿を想像するとなんだか笑えてくるが、まあいいだろう。それ以外にも突っ込みどころはたくさんある。


「で、コントローラーでの操作方法も神様に教わったの? そちらさんは『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて生身でスライムと戦っていたんだから、『マジカルアタッカー』の世界でコントローラーでの操作方法をマスターしたはずはないよねえ。」

「そうですよ、おじさん。神様がスペシャルファミコンの実機と『マジカルアタッカー』のソフトを用意してくれて、基本的な操作方法を教えてくれたんです」

「へえ、神様に『マジカルアタッカー』の操作方法を教わったんだ。じゃあ、それがそちらさんにとって初めての『マジカルアタッカー』のプレイになるんだね」

「そうですよ。何が言いたいんですか、おじさん」


 そう不審がる女子高校生に、俺は疑問をぶつけるのだ。


「ということは、そちらさんは『マジカルアタッカー』の初心者なんだよね。いきなり『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて、スライムにやられてしまった」

「ほとんどおじさんのせいですけどね。おじさんがろくに魔法使いをあつかえないでやられちゃったから」

「それはともかく。そちらさんは、その後になって神様に初めて、スペシャルファミコンの実機でやる『マジカルアタッカー』のコントローラーでの操作方法を教わったんだよね。それにしてはプレイがうまかったじゃあないか。あっさりスライムを倒しちゃったし。神様の世界でスペシャルファミコンでの実機プレイの特訓でもしてたの」

「何言ってるんですか。あれくらい、初めてでもできますよ。ゲームにおける最初の戦闘なんですから初めてでも突破できるくらいの難易度じゃなくてどうするんですか。と言うかおじさんがへたくそすぎです。おかげでひどいめにあいました」


 こんな具合で女子高校生に『へたくそへたくそ』とののしられる俺である。しかし、俺にだって言い分はある。


「そうは言ってもねえ。俺はアクションは苦手なんだよ。基本、コマンド選択戦闘のロールプレイングゲームばっかりやってるから」

「ロールプレイングゲームですか。一人でやるやつですよね。対戦格闘ゲームとかパズルゲームとかを友達とやったりしないんですか、おじさん」

「答えがわかって聞いているのかな?」

「何のことですかねえ、おじさん」


 実に腹立たしい女子高校生だ。


「だいたい、あれだけ上手にそちらさんが魔法使いを操作できるんだったら、俺がプレイする必要なんてないじゃないか。実際、スライムは倒せたわけだし」

「だから、あれは練習モードだって言ったじゃないですか、おじさん。練習モードでいくらスライムを倒したって、実際にスライムを倒したことにはならないの」


 そういえば、これは練習モードらしかった。


「つまりですね、おじさん。あたしは『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて実際にスライムと戦う。そしておじさんがこの部屋にいながらスペシャルファミコンの実機のコントローラーで、『マジカルアタッカー』のゲーム画面を見ながら魔法使いを操作してあたしをサポートするということになるんです。で、おじさんの操作がへたくそだからこの練習モードで特訓してねってことなの。いいですか、練習モードですから何度でも練習できますよ。あたしが一回スライムを倒しましたけど、練習モードですから、リトライすれば何度でも復活しますからね」

「練習モードなら、そちらさんには何にも影響ないの?」


 俺の質問に女子高校生は満足そうにうなずくのである。


「そういうことですね、おじさん。練習モードでは、女剣士っぽいキャラクターがオートで動くようになっています。あたしが『マジカルアタッカー』の世界で戦っているわけではありませんから頼りないかもしれませんが、オートプレイのキャラクターがパートナーでも、スライムを倒せる程度には腕を上げておいてください。一週間後の本番では何が起こるかわかりませんからね」

「はあ……」

「いいですか、おじさん。しっかり練習しておいてくださいよ。時々見に来ますからね。おじさんがしっかりしてくれないと、『マジカルアタッカー』の世界であたしがスライムにひどい目にあわされるんですからね」


 そう俺に命令してくる女子高校生なのだった。

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