第7話女子高校生に特訓される俺
「いいですか、おじさん。この『マジカルアタッカー』はですね、決まった時間に、あたしはあたしの部屋で、おじさんはおじさんの部屋で同時にプレイを始めないと作動しないようになってるんです。逆に言えば、あたしとおじさんがそれぞれ自分の部屋で決まった時間にプレイをスタートして初めて、あたしはゲームの世界に召喚されて、おじさんはゲームをコントローラーでプレイできるってわけです」
「それも神様に教えてもらったの」
「ええ、そうですよ、おじさん」
つまり、たまたま俺とこの女子高校生が全く同じタイミングで『マジカルアタッカー』をプレイし始めて、それがたまたま『マジカルアタッカー』の世界の神様に都合のいいタイミングだった。だから、俺は『マジカルアタッカー』をスペシャルファミコンでプレイできて、女子高校生は『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたと言うことになる。
いくらなんでも都合が良すぎる。だが、これが事実だとすると問題が出てくる。
「となると、次回の『マジカルアタッカー』の世界の神様の都合がいい時間は、一週間後の六時ってことになるんだよね」
「そうですよ。予定あけといてくださいね。予定が何にもないならそれはそれで構いませんけど」
いやなことを平気で言ってくる女子高校生だ。それはともかく。
「それじゃあ、俺はどうやってこの『マジカルアタッカー』の操作を練習すればいいんだよ。一週間たたないとプレイできないんだろう」
「それはですね、おじさん。コントローラーを貸してください」
そう言うと俺の返事を聞こうともせずに、女子高校生はコントローラーを奪いとって何やら入力し始める。
「おい、いったい何を……」
「しっ、少し黙っててください、おじさん」
俺の質問を無視して女子高校生がコントローラーの操作を終えると、テレビのタイトル画面に新しくプラクティスと表示された。そして、女子高校生がそのプラクティスを選択すると、スライムとの戦闘画面に切り替わる。
「はい、これでおじさんは思う存分『マジカルアタッカー』の操作方法を練習できますよ」
そう言って、女子高校生が俺にコントローラーを手渡してくる。
「わっ、急にそんなこと言われたって。だいたいゲームの戦闘が始まったばかりじゃないか。戦闘中にコントローラーを手放すなよ」
「問題ないですよ、おじさん。テレビ画面をよく見てください」
女子高校生にそう言われて、俺はテレビに映ったゲーム画面をよく見るとメニュー画面になっている。二人のキャラクターののステータスやらなにやらが表示されているみたいだ。
「そこから使う魔法を選んだりするんですよ、おじさん。それよりも何か気づきませんか」
「何かって、まだこの『マジカルアタッカー』をろくにプレイもしていないのに……」
とまどっている俺を、女子高校生はあきれ顔で見つめている。そして、俺にヒントらしいことを言ってくるのだった。
「ほら、女剣士のグラフィックはどんな感じでしたか、おじさん」
「それは、黒い長髪にビキニアーマーを着た……あれっ、輪郭だけになってる。でもステータスは表示されているね」
「ご名答です、おじさん。それじゃあ、メニュー画面を閉じちゃってください。戦闘画面に戻りますから」
「でも、それじゃあ、またそちらさんがスライムにひどい目にあわされるんじゃないの」
「はいはい、心配してくれてありがとうございます。あたしは平気ですから、とっとと戦闘画面に戻りましょうね」
女子高校生はそう言いながら、俺のコントローラーのBボタンを押してくる。そんなことをしてしまったら……
テレビにスライムとの戦闘画面が映し出される。俺はあわてて再度メニュー画面を開こうとするが、女子高校生が横からごちゃごちゃ言ってくるのでうまくいかない。そんなことをすると、またスライムに何かされるハメになるぞ。
「静かにしてくれよ。俺の魔法使いがやられると、そちらさんの女剣士だってピンチなんだぞ」
そう女子高校生に頼み込む俺である。すると、女子高校生はとぼけた様子で俺に言ってくるのだ。
「あたしの女剣士がピンチねえ。その女剣士はどこにいるんですか」
どこって、スライムと戦っているんじゃあないのか。そう答えようとしてテレビの戦闘画面を見渡すが、どこにも女剣士は見当たらない。もうスライムにやられてしまったのだろうか。それならそれで、やられてダウンした女剣士のグラフィックが表示されていそうなものだが……そういえば、輪郭だけ黒い線で表示されたキャラクターが画面を動き回っている。その輪郭は、どことなくさっき『マジカルアタッカー』をプレイした時には画面にいた女剣士に似ている。
この輪郭はステータス画面にも表示されていたなと思ったが、そうこうしているうちに、俺の魔法使いがスライムの攻撃を受けてヒットポイントを減らしていき、ついにはやられてしまった。
そして、輪郭だけの女剣士はしばらくスライムと戦っていたが、攻撃を受けて減らされたヒットポイントを回復する手段がなく、結局スライムにやられてしまった。
となると、コントローラーでゲームをプレイしていただけの俺はともかく、ゲーム世界に召喚されて女剣士を実際にやっているこの部屋の女子高校生には何かペナルティが与えられたりしないのか。そもそも、一週間後の夕方六時にならないと召喚されないのじゃあなかったのか。
俺はそんなことを考えながら、コントローラーを握っている俺の隣で涼しい顔をしている女子高校生をじっと見つめるのだった。で、その女子高校生が俺に向かってこんなセリフをはいてくる。
「どうしたんですか、おじさん。練習まだ一回しかやっていませんよ。ほら、リトライしないんですか」
そう言ってテレビの画面を指差す女子高校生につられて俺もテレビの画面を見ると、そこには『リトライ?』と表示されていた。
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