二日目

第13話俺が特訓をさぼっていないか監視に来る女子高校生

「おお、ちゃんといますねえ、おじさん。かんしんかんしん。でも、部屋が暗いじゃないですか。もう夕方なんだから、あかりくらいつけないと」


 そんなことを言いながら俺の部屋に入ってきた女子高校生が、部屋の明かりをつける。そう言えば、俺の部屋の窓から見える近所のアパートには、明かりがついた部屋がちらほらある。


 この女子高校生が俺の部屋にやってきた次の日の夕方六時のことである。昨日宣言した通りの時刻にまた俺の部屋に侵入してくる女子高校生だった。


「はいはい、いますよ。見ての通り『マジカルアタッカー』の練習をしています。そちらさんがご存知のように俺は失業して何もすることがありませんからね。ただ部屋で『マジカルアタッカー』の練習をするしかないんです」


 そんなふうにスペシャルファミコンのコントローラーを操作しながら『マジカルアタッカー』をプレイしつつ俺がぼやくと、女子高校生はうれしそうな表情をするのだった。この女子高校生は、人の不幸をなんだと思っているんだ。


「それで、おじさんはちゃんと『マジカルアタッカー』の練習をしていましたか。部屋にいるからって、今のご時世なんだかんだやれることはありますからねえ。スマートフォンで変なサイトばっかり見てたりしてたんじゃあないですか。で、あたしが来ると言った夕方六時近くになったら、スペシャルファミコンの電源を入れて『マジカルアタッカー』のプレイを始める。そしてあたしが来たら、さも昨日からちゃんと『マジカルアタッカー』の練習をずっとしていたようなふりをする。そんなことをおじさんがしても、あたしにはお見通しですからね」

「とりあえず、俺が『マジカルアタッカー』をやるところを見ていてくれ」


 俺は女子高校生の質問にはいともいいえとも答えない。代わりに、俺は『マジカルアタッカー』のプレイを女子高校生に見せることにする。ちょうど特訓が一段落して、画面には『リトライ?』と表示されている。


「いいでしょう、おじさん。拝見しようじゃありませんか」


 そんな女子高校生の言葉を聞きつつ、俺はスライムとの戦闘練習を始めようとコントローラーのAボタンを押すのだった。


 テレビの画面にスライムとの戦闘画面が映し出される。スライムは画面の上半分の真ん中あたりでうごめいている。そして、輪郭のみの女剣士がオート操作でスライムに攻撃しようと近づいていく。俺は魔法使いを画面の下の方に移動させておく。


 すると、スライムが体の一部分を飛ばして、俺の操作する魔法使いや輪郭のみの女剣士を攻撃してくる。なんとかその攻撃をよける俺の操作する魔法使いである。しかし、俺の操作がおぼつかなく一発か二発の攻撃は食らってしまう。やはり女子高校生がやるようには上手くいかない。


 そして、輪郭のみの女剣士もスライムの攻撃を何発か受けてヒットポイントを減らしている。それを確かめると俺はAボタンを押して、輪郭のみの女剣士に『ヒール』をかけて減ったヒットポイントを回復させる。早め早めに回復しておかないと、俺の操作する魔法使いと輪郭のみの女剣士のヒットポイントが両方ともギリギリになってしまい、片方を回復させていいる間にもう片方がスライムに攻撃されてヒットポイントをゼロにされてしまうのだ。


 実際それで、俺は何度も俺の操作する魔法使いを倒されたり、輪郭のみの女剣士を倒されたりした。


 先に魔法使いを倒されると、あとは輪郭のみの女剣士がスライムにされるがままになっているところを、俺がテレビの画面で見てるだけである。何もすることはないし、なにより輪郭のみとは言え、あの女子高校生がいろいろやられているようで見るに耐えなかった。だから俺はさっさとスペシャルファミコン本体のリセットボタンを押してタイトル画面に戻り、ふたたび隠しコマンドを入力して練習モードを再開していた。


 また、先に輪郭のみの女剣士が倒されると、俺の操作する魔法使いにできることはない。使える魔法は回復魔法だけだし、スライムの攻撃をさけつつそのスライムに近づいて接触しても、魔法使いにダメージが入るだけでスライムがダメージを受ける様子は全然なかった。魔法使いは直接攻撃はできず、敵と接触しても一方的にダメージを受けるだけというシステムになっているのだろう。というわけで、こうなっても俺はスペシャルファミコン本体のリセットボタンを押してタイトル画面に戻り、隠しコマンドを入力して練習モードを続けるというパターンだった。


 で、女子高校生に練習の成果を見せている真っ最中の俺だが、今回はなんだか調子がいい。スライムの体の一部を飛ばしてくる攻撃を、それなりに俺の操作する魔法使いがよけている。何発かは食らっているが、回復が間に合わないほどではない。俺の操作する魔法使いと輪郭のみの女剣士のスライムによって減らされたヒットポイントを、うまいことショートカットボタンのAボタンとBボタンを使い分けて回復することができている俺である。


 そんなスライムの攻撃を避けながらの、魔法使いと輪郭のみの女剣士の減らされたヒットポイントの回復、ということを俺はしばらく続けていた。そうしたら、スライムが動きを止めて爆発しながら姿を消していく。やった。倒せた。うまくいった。よかった。いいところを見せられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る