第21話 バックに凄いのつけたかも

 週明け最初の体育前の休み時間、更衣室で一緒になった凛々子に玲央さんの事を聞いてみることにした。この子と一緒に着替えるのはいろいろ気が引けるんだけど、情報通の凛々子ならいろいろ知ってるだろうから聞いておかない手はない。


「うん、手代木先輩んち、相当な資産家だよ。お手伝いさんと運転手さん、住み込みだし。車も黒塗りの高級車で、家なんか塀がずーっと続いててさ、屋根だけ辛うじて見えるくらい家が塀から離れてんの。それだけの敷地があるってことだよね。お爺ちゃんなんかいつも和服着て凄い貫禄あって、なんか映画に出て来るナントカ組の組長みたいな感じ」


 えええ、どうしよう。脳内イメージが凄い事になってます。


「それって、マフィアの大ボスとか、暴力団の組長とか、そういう類の人?」

「んなわけないじゃん、あの辺一体の大地主だから単にお金持ちなだけだと思うよ」


 そ、そうか、よかった。あたしの妄想力に実態が追い付いていなかったようだ。

 それにしても、お爺ちゃんそんなお金持ちなのにそこに頼らないのか、玲央さんは。あたしならマッハで頼るのに。


「でもさ、そのナントカ後見人っての? それ、なんでうちじゃないんだろうね、スミレんとことうちは親戚同士じゃん。普通に考えたらスミレの後見人はうちになるんじゃないの?」


 って言ってるとこ見ると、凛々子は叔母さんが後見人を辞退したこと知らないんだ。もしかしたら辞退できることすら知らないかも。あたしも知らなかったし。

 ここは適当に誤魔化しておいた方が良さそうだ。自分の母親がいとこの後見人を拒否したなんて聞いたら、凛々子の事だから叔母さんに抗議するに違いない。凛々子の気持ちは嬉しいけど、あたしも叔母さんの世話になんかなりたくないんだ。


「なんかね、家庭裁判所で選任されるらしいよ。それ相応の人が推薦されるって」

「ふうん。ややこしいもんだね」


 ああ、凛々子のプロポーションが羨ましい。Eカップくらいありそう。

 

「それで、手代木先輩のお爺ちゃんがスミレの後見人になりそうな感じなの?」

「あ、ええと、推薦できるって言ったかな、あたしは難しいことはよくわかんないんだ。ただ、なんか資産状況がどうのとか、肩書がどうのとかって話をしてたから」

「資産状況とか肩書で言ったら、この辺りじゃ一番の名士だよ。スミレ、凄いのバックにつけたじゃん。もう黒幕っていうレベルだよ」


 いろんな意味で怖いんだけど。でも名前だけみたいなこと言ってたし、実際のところ、あたしのことに関しては全部玲央さんが面倒見てくれるみたいだし、まあいいか。


「でもなんで手代木先輩のお爺ちゃんが? どーゆーつながりよ?」

「うちのお母さん、手代木先輩のお婆ちゃんの担当だったの」

「あーそうだったんだ! 知らなかったー」


 知ってるわけがない。基本的に職員の方がそういう情報は漏らしちゃダメなんだろうから。


「じゃあ、手代木先輩の結婚式とか、スミレも呼んで貰えるんじゃない? いいなー、私も呼ばれたい。あ、その頃はスミレも成人してるから関係ないか。でも、後見人してるくらいだからきっと呼ばれるよ」

「そんないつのことかわからないような話……」


 そしたら凛々子、「は?」って顔して、その巨大な胸を体操服の中に押し込んでこう言った。


「手代木先輩、もう婚約してるって話だよ」

「えええっ?」

「副会長の伊集院先輩。いつも一緒にいるじゃん」

「えっ……だって、あの二人付き合ってないって聞いたけど」

「小さい頃からの幼馴染なんだから付き合うもへったくれもないでしょ、小学生の時に既に両家のお爺ちゃん同士で決めたって話だよ。手代木先輩のとこは大地主だし、伊集院先輩は財閥のご令嬢だからさー」

「そんな、昭和のテンプレ的少女漫画展開が今のこのご時世であるわけないでしょ。お爺ちゃん同士が決めたって、本人たちが納得しなきゃ結婚とかありえないじゃない」

「それはそれで平成のテンプレだよね」


 ううう、それも言えてる。

 先に着替え終わった凛々子が「早く」と急かす。更衣室の人口密度がだんだん下がってきた。


「伊集院先輩も彼氏いないみたいだし、手代木先輩も彼女いないみたいだから、このままゴールインしちゃうんじゃない? 二人ともメチャモテなのに、特定の人作らないんだもん。あれきっと結婚式でファーストキスのパターンだよ」


 ありえる! 大いにありえるよ玲央さん!


「ヤバい、スミレ、遅れるよ、早く!」


 あたしは頭の中大混乱のまま、凛々子に引きずられて体育館に向かった。

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