第48話 相談

「玲央ったらそんなこと言ったの? もうなりふり構わずなのね」

「笑い事じゃないです」


 昼休みの生徒会室。桜子さん、楽しそうに笑ってるけど、こっちはそれどころではないのだ。明らかに階級の違うお坊ちゃまと結婚なんてありえない。家政婦ならわからなくもないけど、手代木の嫁なんて想像するだに恐ろしい。


「ねえ、菫さんはどうなの? 玲央のことは好き?」

「あたしがですか? あたしは家政婦ですから」

「そんなこと聞いてないわよ。菫さんは玲央の事が好きなの? 家政婦とかそんな話じゃなくてね、あなた自身はどうなの?」


 あたし自身の気持ち。それは……。


「玲央さんのことは好きです。難しい事ばっかり考えていて何考えてるのかさっぱりわからないけど。でも、凄く優しくて。一遍に両親を失って空っぽになっていたあたしが、そんなに落ち込むことなくこうして来られたのは玲央さんのおかげです。本当にいい人です」

「そうじゃなくて」


 桜子さんが苦笑いと共にタッパーに入れたイチゴをあたしの方に勧めてくれる……から、遠慮無く貰う。うぅ、美味しいです。


「一人の男として、玲央のことどう思っているの?」


 ドキッとした。そんなこと、考えたこと無かった。

 一人の男として、玲央さんを?

 え、ちょっと待ってください、どうしよう、凄い恥ずかしいです。え、なんで、何これ、なんでこんなに顔が熱い? なんでこんなに心臓バクバクする?


 うわぁ、どうしよう、急にクリスマスの夜のこと思い出しちゃった。うわぁ、うわぁ、うわぁ……。


「あの……笑わないでくれますか?」


 桜子さんは一瞬キョトンとしたけど、すぐに「もちろんですわ」と力強く頷いた。


「あの、あたし、一度だけ玲央さんに抱きしめられたことがあるんです」

「えええ? あの玲央が?」

「はい。単にあたしがよろけて転びそうになったのを、玲央さんが咄嗟に抱きとめてくれただけなんですけど。あたし、そんな風にされたこと無いから、だから玲央さんのこと好きになったように錯覚してるだけかもしれなくて。でもそれだけじゃなくて、玲央さんのこと本当に好きかもしれません、凄く。家政婦だし、借金あるし、そんなふうに考えちゃいけないのはわかってますし、家柄とか考えたらこうしてお近づきになることもどうかって思うんですけど……でも、好きな気持ちはどうにもならないって言うか」


 ここまで喋って気づいた。あたし、玲央さんのこと好きなんだ。


「なーんだ、菫さんちゃんと玲央のこと好きなんじゃないの。じゃあ余計なことは考えずに玲央に任せておけば良くてよ。彼が全部まとめてくれるわ」

「でも……」

「あなたは『家政婦だから』とか『借金が』とか考えないで、玲央のこと好きっていう気持ちだけでいいのよ。大丈夫ですわ、玲央を信じて」


 はぁ……そうだといいけど。なんでそんなにおおらかに構えていられるの? 桜子さん、本当に玲央さんのこと信頼してるんだ。


「それより菫さん、今週は玲央の体調管理しっかりしてあげてね。玲央はわたしと違って普通に受けるみたいだから」

「は? 受ける? 何をですか?」

「いやだ、センター試験に決まってるじゃない」


 ……?

 ……!


「センター試験! 玲央さん、三年生じゃないですか!」

「どうしたの、菫さん大丈夫?」


 全然大丈夫じゃなかった。

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