第47話 私は彼を信じたい

 無実を晴らすと言ってこのビルを出て行った彼は、私にとって一筋の光だった。これまで彼には何度も助けられた。ちょっと不器用だけど私のことを大切に思ってくれる彼の存在が、私の中で少しずつ大きくなっていった。


 舞台の練習を終えてホテルに戻ったとき、いきなり見知らぬ男に襲われ、私はこの部屋に連れてこられた。彼が連行されてきたのもその直後だった。

 

 目の前で腕を組んで立っている女に怒りをぶつけたくてもぶつけられなかった。

 私は女に拘束され、足蹴にされた。生まれて初めて、屈辱を味わった。

 すべてこの女が私を始末するために仕組んだことだ。中学時代の遠足に私を恨む理由となった事件が起こったらしい。

 彼女の連れの一人が行方不明になったのだ。

 あの時私は彼女の連れと一緒にいた。ただ、つかみかかられ、押さえつけられ、後ずさるしかなかった。中学男子の腕力に、女の私がかなうはずなかった。


 それ以降のことは覚えていない。気づいたときには彼女の連れはいなかった。


 彼女は私が連れを突き落としたと言い張る。だが彼はそれを否定する。

 そして、彼は彼女の挑戦を受けた。彼なりの判断だったと思う。


 私は彼を信じて、帰りを待つ。不思議と恐怖は薄らいでいった。

 女は不思議と私に何もしてこなかった。ただ窓の外を眺めるだけだった。


 そして、廊下を走る足音が大きく響いた。



 

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