第23話 私はひと段落を付けたい

 伊達だて直也なおや。彼の名前を忘れていたわけではない。

 彼は私や高林くんと同級生であり、中学時代にあいつ含むいじめグループと一緒にいた仲間の一人だった。彼はあいつのパシリで、直接高林たかばやしくんに手を下していなかった。


 デートから帰った日の夜、私は部屋着のままベッドの上で天井を眺めていた。目を閉じると、中学の時の思い出がよみがえる。


 私は一度だけ学級委員だった男の子と一緒に彼のいじめを止めに入った。声を上げて彼を注意したのを覚えている。いじめは自分の意に反してやったこととはいえ、伊達君にとってこころよいものでは無いだろう。


 しかし、そんな彼がなんで私に手紙を? 純粋に演技に興味を持ってもらえたなら嬉しいけど、それならわざわざ手紙なんか寄越さなくてもいいのに。


 まさか、気があるの? そんな訳ないと思うけど。


――そうだ


 私はスマホの自分のアルバムフォルダを開いた。並んでいるのは小学校時代からの記憶。

 私はスマホの画像欄をぼーっと眺めていた。黒い髪の元気な少年が私と一緒に肩を組んで、ピースしている。

 小学校時代の遠足で、彼と一緒に撮った写真だ。私たち、いつも一緒にいたよね。

 そして、伊達君に注意した時の彼の横顔も覚えていた。

 正義と優しさを兼ね揃えた茶色い瞳。思いは伝えていないけれど、私にとって大切な人だった。


―― ハナ、気持ちはわかるけどそろそろひと段落つけてもいいんじゃない?


 いつの日か、友人に言われた言葉が脳内に響く。

 今、私には付き合っている人がいる。彼は不器用だけど、頑張って私に気を遣おうとしたり、仲良くしようとしたり努力している。

 それはとても嬉しい。私も彼の気持ちには出来るだけ答えていきたい。


 でも……


 ごめん。私にはひと段落つけるなんてできないよ。

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