後日談

俺は彼女と共演したい

「へえー、高林たかばやし。お前からコクったのか……。一回でオッケーもらえるとか、ツイてるなあ。藤安ふじやすを紹介して正解だったぜ」

「ったく、あんたらあたしたちに了承なく告白決めちゃって。だからクリスマスの予行練習がやけに上手くいったのね。とりあえず、佳作かさくおめでとー。パチパチパチパチー」


 興味津々な表情の千葉部長とは対照的に、面白くなさそうな顔で感情のない棒読み声で祝福()する宮部さん。俺は苦笑いを浮かべていた。


 コンテストの結果発表から一週間後の二月末。外は雪が降っていて寒いが、日は長くなり確実に季節は春にむかっていた。


 俺とハナちゃんは宮部さんと千葉ちば部長とともに、大学近くの喫茶店に来ていた。

 俺が書いたラブコメが佳作に入賞した報告と、そのお祝いということで、千葉部長が手配してくれたのだ。


 当然、俺が告白したことも知ったのだが(俺から話したわけでなく、千葉部長が言葉巧みに誘導した結果、漏れてしまった。まあ、俺がいつまでも隠し通せるわけでもないのだが)、宮部さんは拗ねてしまい、千葉部長は後ろからからかい始める始末。


「いや……その……宮部さん? ありがたいんだけど……」

「ふん! おんなじこと言わせないでよ。バカ」

「バカって……」

「じゃあアホ」

「……」


 頬を膨らませ、ぷいと宮部さんは丸椅子を後ろに向けた。


「まあまあ、ナエ。いいでしょ」


 ハナちゃんが彼女の親友をなだめようとするが、宮部さんは一向に振り向こうとしない。


「ふーんだ。どうせあたしはカレシいませんよーだ」


 だが、少しして開き直ったのかもう一度体をこちらに向けると、


「ま、でもあたしとしては嬉しいかな。ハナ、やったじゃん。それに……」


 宮部さんは俺の目を見て微笑んだ。


「弟子よ。よくやってくれたなー。師として嬉しいぞよ?」

「……あ、ありがとう」

「やっぱりあたしが見込んだ男だったわ」


 さっきまでのねっぷりは何だったのだろうか……。とりあえず、師匠をぎゃふんと言わせることには成功したようだ。

 千葉部長はブラックコーヒーを店員さんに注文すると、


「それはそうと、俺の小説レクチャーも役に立っただろ? 即席の案だったけど」

「結局、まんまそうなりましたからね。佳作まで行くとは思いませんでした」

「お前の頑張りの成果だよ。今日は好きなもの注文してくれ。金は俺が払うから」

「……本当にいいんですか?」

「いいっていいって」


 部長には悪い気はするが、俺も藤安さんも好きな料理を食べながら、みんなと会話に花を開かせた。

 完全に俺のコミュ障が治ったわけではないけど、それなりにしゃべって、それなりに話の輪に入れたからまあいいだろう。

 食事会の中盤、演劇部の話題になった。


「やっぱり、演劇の活動は再開できそうにないですかね……」

「まあ……なあ。世間に示しがつかないし、部員も心に深い傷を負ってるからなあ……」


 演劇部は折山が起こした事件のこともあって、クリスマスの公演会を辞退せざるを得なかった。

 せっかく合宿や京都での現地練習までやって頑張ってきたのに、仕方ないとはいえ演劇部員たちに精神的にも、肉体的にも甚大なダメージを与えていた。


「だけど、月島はいつか絶対に演劇部を復活させるって言ってたよ。俺も協力するつもりだ。いつになるかはわからないけど、また藤安や宮部たちが舞台に立てるようにしていきたいよ」

「頑張ってくださいよ、部長! 俺もまたハナちゃんが舞台で演じる姿みたいですから」


 俺の頭に早乙女さんと競ったハナちゃんの姿が鮮明に思い返された。

 奇麗で、華やかで、見る者の心を奪う演劇。さすが女王だなと思った。

 俺の話を聞いた宮部さんがハナちゃんに微笑みかける。


「よかったじゃん、ハナ! カレシ、また演技みたいんだって!」

「え……」


 彼女に目をやると、ハナちゃんは顔を赤くしていた。

 俺は彼女の肩を押した。


「めっちゃ楽しみにしてるよ、ハナちゃん! いつか、君の演技見たいよ!」

「そ、そんな……」


 俺はあることを思いついた。文芸部の部長である千葉部長は演劇用の脚本を書いていた。

 よしっ。


「その時はさ、俺の作品で劇して欲しかったり……」

「え!?」

「本当に劇のヒロイン役になって欲しかったり……」

「!!??」


 宮部さんは目を輝かせ、身を乗り出していた。


「おっ、いいねー! 想像するだけでわくわくする! 一流の文豪と一流の美人女優の夢の共演! くー、マジで痺れるわー!!」

「ちょっと、ナエまで……!」


 ハナちゃんは慌てている。


「はははっ! いつか公演ができるよう俺たちも頑張らないとな!」


 部長も笑っている。

 俺は少しの戸惑いを感じつつも、ハナちゃんがまだ舞台で、俺が書いた脚本で演じられる日が来るのを楽しみにしたいと思った。

 いつになるかはわからないけれど、活動を再開できることを願いたい。


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