第46話 俺は君を助けに行きたい
それから俺と
伊達は中学時代の同級生に連絡を入れて、遠足のとき何があったか、聞いてくれるのだという。
やつは俺よりダチが多いと豪語していたが、俺はぐうの音も出なかった。残念ながら伊達は俺よりも数倍友人がいる。
もちろん、いじめグループの連中も含めてだが、奴は人当たりがよくお人好しだった……だから浅木に騙されたんだと思うが。
俺も可能な限り情報収集に当たろうとした、が中学時代の友人なんてほぼおらず連絡先も知らない。それ以上に今はスマホがなく、頭の中からかろうじて分かる友人に連絡をしようとするが、思い出せない。
つまり、ぼっちの俺は伊達の情報頼みだった。
六時間経ったらこちらから伊達のスマホに連絡を入れることになる。
とりあえず俺は公衆電話から出ると空を見上げた。肌寒い北風が俺の肌をかすめるが、すでにオリオン座など冬の星座が見え始めている。
今は、彼女を助けることに専念すべきだが、伊達からの連絡を待とう。
俺は近くにあったベンチに腰掛けて休憩していると、どこからか男女の声がしていた。
聞き覚えのある声。一人はきつい口調だが、もう一人がなだめているようだ。
二人の姿が視界に現れる。歩いてきたのは演劇部の部長さんと、
多分、周りには浅木が仕向けた監視要員がいるだろう。助けを呼びに行くのはまずい。俺はとっさにビルの陰に隠れた。
「もう、
「早乙女、すまないな。俺たちもできる限りの協力をしたい。頼むよ」
「……正直、あんまりやる気にはなれないんですけど」
「そんなこと言うなって」
不満げな早乙女さんを月島部長がたしなめている。
どうやら演劇部員は俺たちを捜しているようだ。
「まあ、
「……なんか用事があるって言ってたぞ」
「用事?」
早乙女さんが不審な顔で部長を見ていた。
「京都で急用があるってさ」
「は? いきなり? 何も聞いてないんですけど」
「清水寺を貸し切った関係じゃないのか? この京都には
「……一体何考えてるの、あの子。最近全然協力的じゃないんだけど」
早乙女さんは顔をしかめていた。何かを疑うような目だ。
ふたりが通り過ぎたのを確認すると、俺は通りに出た。
さっきに二人の会話――どうやら折山がどこかに消えたそうだが……。そういえば彼女、京都に来る以前から不審な行動をとっていた。あの有名な清水寺を貸し切ったのもそうだが、何かを画策しているかのような感じ……。
……まさか、裏で浅木と繋がってるんじゃ……。
そんなわけないかと思った……その瞬間俺の脳裏で電光が走った。
待てよ……俺が監禁されていたビルって……。
あと、あの名前の会社、ほかにもどこかで見たよな……。
藤安さんと早乙女さんの舞台装置を運んでいたトラック……。
おい、まさか……。
あいつは実家が相当な金持ちだと聞く。
いったい、何をする気なんだよ……。
***
その後俺はひと眠りするため、こっそりとビルに戻った。たまに監視要員と目が合うが、一度休むと伝えると通してくれた。
こちらからは何もできない以上、こうするほかなかった。
翌日も俺は演劇部員や警察に見つからないように行動する。少ないお金で自販機のジュースを買って空腹をしのいだ。
これも、藤安さんに危害を加えさせないためだ。しかし、浅木は二十四時間待つと言っていたが、いつまで守ってくれるかは不透明。だから、なるべく早く伊達からの連絡が欲しかった。
朝から何度か公衆電話からかけているものの、一向に出ない。
お金も限られているから、早く出てほしい……俺に焦りの色が見え始めていた。
そして、昼も過ぎたころ……
【もしもし? 伊達です】
「あ、伊達か! よかった……。何か情報掴めたか?」
【ああ。ばっちりな。感謝してくれよ? とりあえず、遠足に同行していたやつら全員に可能な限り連絡を取れた。これも俺のおかげだぜ? もし俺がぼっちだったら今頃ヤバいことになってたぜ】
「……いいから早く言え」
むっとしてしまい、俺の声が非常に低くなった。
【まあ焦るな。お前の予想した通り、ハナちゃんは何もしてねえ。あれは事故だった】
「他にも目撃者がいたんだな」
【ああ……。何人かが見ていたそうだ】
どうやら崖の前で
その時に一緒に落ちてしまったという。
その後、彼女は奇跡的に助かったが近衛は運悪く命を落とした。
彼女は近衛を殺していなかった。
俺は安堵のため息をついた。
【おいおい、でっかいため息が電話越しにも聞こえてくるんだが】
「わりぃわりぃ。ありがとうな、伊達」
【力になれたようでよかったよ。とにかく、絶対にハナちゃんを連れて帰るんだぞ】
「わかった」
俺は通話を切った。
時間は残されていない。今すぐにでも、君を助けに行こう。
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