第3話
里中はこのクラスの王であった。それは生徒達を導く教育者やリーダーとしてではなく、恐怖で支配する皇帝という意味でだ。
里中は少しでも誰かがミスをすればその生徒が泣くまで責めたて、ミスがなくとも今朝のように無理矢理罪人に仕立て上げて吊るし上げる事も多々ある。特に男子生徒に当たりが強く、クラスでも真面目で大人しい部類の満も、里中が担任になってからの二ヶ月間に理不尽な言い掛かりで三度も泣かされた。
消しゴム戦争という消しゴムをぶつけ合う遊びをしていて、それを里中に見つかり消しゴムをへし折られた事もある。
最初は一部の男子生徒達や、理不尽を許せない女子達が里中に反抗をしていたのだが、そうすると他の生徒達に皺寄せが行くうえに、里中は口が上手く、最終的には里中が目を付けたものが悪者になるように仕立て上げられるのだ。
以前、佐々木という女子生徒が里中の振る舞いについて両親に相談し、両親が校長室に怒鳴り込んだ事があったそうだが、里中は外面を上手く作る
そして、里中は時折馬鹿みたいに機嫌が良い日があり、そんな日は例え花瓶を割ってしまっても注意だけで済む。しかしそんな日でも油断はできない、午前中までは機嫌が良くても、午後になると突如不機嫌になる事もあるからだ。
そんな里中の機嫌に振り回されて疲弊した満達は、抵抗する気力を奪われ、今はただ里中の支配を受け入れ、ご機嫌を伺う事しかできない状況であった。
朝の一件の後、幸いな事に他に里中の被害者が出る事もなく三時間目までが終わり、満は四時間目の体育に備えて体操着に着替え始める。満が着替えていると、早々に着替えを終えた男子の一団が松村を取り囲むのが見えた。
「おい、まっちゃん元気出せよ。大丈夫か?」
そう言って松村の肩を叩いたのは、五年一組の男子のリーダー的存在である
「今朝のババ先マジありえねぇよな。マジクソだわ」
敷島が言った「ババ先」とは、ババァと先生を掛け合わせた里中の隠語である。五年一組の生徒達は、その殆どが里中の事を恨んでいる。しかし彼らにできる抵抗は、屈辱的なアダ名をつけたり、陰口を言う事だけであった。
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