第36話
日曜日を挟んで月曜日。
朝に満が登校し、教室のドアを開けると、クラスメイト達の視線が一斉に満へと向けられた。
満は何事かと思いながら自分の席に向かうと、満の席には先週矢上の机がそうなっていたように、罵詈雑言が書き殴られ、ゴミが撒き散らされていた。
教室内を見渡すと、まだ登校していない西之原、松村、矢上の机も同じような有様になっており、大島達がこちらを見てニヤニヤと笑っている。犬達はどうやら本格的にこちらを潰しにきたようだ。
そして満はある事に気がつく。
犬達の中に、一人だけ俯いてこちらを見ていない人物がいる事に。よく見るとそれは満達の仲間であるはずの市原であった。
満はハッとして市原の机を見ると、そこは満達の机とは違い、何事もない綺麗な机があった。
それを見て満は察する。
市原が向こうに寝返ったのだと。
いや、もしかすると市原は初めから向こう側に着いていたのかもしれない。そうであれば里中が反乱分子である満達の存在と、そのメンバー全員、カメラでの盗撮、そして矢上の裏切りを知っていた事にも納得がいく。
敷島と真瀬田を欠いて満達の勝ち目がほぼ失われた今、市原はもはやその正体を隠す必要が無くなったのだろう。
「市原さん」
真実を知るために市原に詰め寄ろうとした満の前に、大島が立ちはだかる。
「私達に近寄らない方がいいよ。敷島君みたいになりたくなければね」
そう言って大島達は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「……大島さん。大島さんは何も思わないの? クラスメイトが里中先生にいじめられてるのを見ていて、何も思わないの?」
満の問いに大島は鼻で笑う。
「いじめ? 先生は先生の仕事をしてるだけじゃない。あなた達みたいに集団で先生に刃向かうのが正しい事なの?」
「だって……先生はいつも明らかにやり過ぎじゃないか。それに、理不尽な事だってする。それをやめさせたいだけだ」
「それはあなた達がバカだからでしょう。私はあなた達と違って真面目で学校のルールを破ったりしない。だから先生に選ばれたの」
「違う。都合よく使われてるだけだ。先生が効率よくクラスを支配する為に」
「先生がクラスを支配して何が悪いの? 学校ってそういう所でしょう? 学校は敷島や松村みたいなバカがのびのびするためにあるんじゃないわよ」
満はその言葉にカッとなり、思わず拳を上げそうになったが思い止まる。今ここで大島を殴れば満も敷島と同じ事になるだろう。そして里中の支配が正しい事を証明してしまう。
「クラスメイトにあんな嫌がらせをする事が正しい事なわけないだろ」
満は自らの机を指した。
すると大島は再び鼻で笑う。
「ふーん。じゃあ証拠があるなら見せてよ。私達があれをやったって証拠あるの? ねぇ? 言いがかりはやめてよね。気持ち悪い。もうあっち行ってよ。あんた達とは関わりたくないから」
証拠。そんなものがあるわけがない。そう言われては、満は今はただほぞを噛み、引き下がる事しかできなかった。
満は去り際に市原に言った。
「市原さん。僕達は諦めないよ。いつでも戻って来て大丈夫だからね。僕達は里中とは違うから」
市原は俯いたまま何も答えなかった。
後に登校してきた西之原達に市原の寝返りを伝えたところ、皆大きなショックを受けていた。そして、誰も新たな作戦を提示する事はなかった。
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