第38話
「クラスの問題はクラスのみんなで解決する。当たり前でしょう? 今、西之原君達は真実を求めています。それならばクラスメイトとして力を貸してあげるのは当然でしょう?」
里中はしごく真っ当な事を言っているように思えるが、それが建前なのは間違いないであろう。現にクラスメイト達は頷きつつも満達に冷めた視線を送っている。恐らく里中の思惑通りに。
里中は反乱分子である満達を徹底的に潰すつもりなのだ。クラスメイト達の敵対心を満達に向ける事によって。
「俺達真面目に掃除してたよな!? タカちゃん」
西之原は焦りの表情を浮かべ、満や西之原と一緒に三階の男子トイレを掃除していた高田という男子生徒に訴えかける。高田は満達が皆に協力を頼んだ時、満達に賛同してくれた面子の一人であった。
高田が戸惑いつつも「ちゃんとしていたと思う」と答えると、原が反論する。
「でも、私が男子トイレの前を通った時、西之原君と敷島君のふざけているような笑い声が聞こえてきました。もしかしたら高田君も一緒にふざけていたのではないですか?」
「そ、そんな! 僕はふざけてません!」
高田の言葉に里中はまたニヤリと笑う。
「もしあなたもふざけていたなら、トイレ掃除のやり直しと反省文を書いてもらう事になるけど、本当にあなたはふざけていないのね」
「はい……僕はふざけていません」
高田は蚊の鳴くような声でそう言うと、高田を睨み付ける西之原の方をチラリと見た。
「じゃあ、西之原君と咲洲君はどうだったの? ふざけてた?」
里中の問いに高田は流石に言い淀む。
高田をジッと見つめる里中に、西之原は叫んだ。
「先生! それは誘導尋問です!」
すると、すかさず里中が怒鳴り返す。
「黙りなさい! 私は高田君に聞いているの。それとも何かやましい事があるから高田君が答えるのを遮ろうとしてるの? いくらクラスの仲間とはいえ、あなた達がみんなの時間を奪っている事を自覚しなさい!」
そう言われては西之原はそれ以上何も言う事はできなかった。しかし、高田には良心がまだ残っているせいか、中々里中の望む答えを口にしない。
満は心の中で「タカちゃん負けないで」と祈った。
クラスメイトの中には「早く言えよ」と、心無い言葉を投げる者もいたが、それでも高田の良心の天秤はバランスを取り続ける。
だが、里中は更に非情な言葉を投げかけた。
「もういいわ高田君。このままじゃラチがあかないから、クラス全員でもう一度掃除をし直しましょう。その方が早いわ」
それを聞いたクラスメイト達の悲鳴が教室内に響いた。高田は慌てて「待ってください!」と言ったが、里中は聞く耳を持たない。
「ううん。もういいの。先生は高田君に無理して嘘ついて欲しくないし、誰が嘘つきだとか、そんな犯人探しみたいな事も本当は嫌なの。でも西之原君達が掃除を不真面目にやっていたという意見が出てしまったのは事実だし、スッキリするためにみんなでもう一度掃除をして、それで終わりにしましょう。クラスの仲間である西之原君達のためにね」
そう言って里中は大仰にやれやれという仕草をして、爽やかに笑う。
少し考えれば里中の論がおかしいのは明らかである。そもそも最初に満達を告発したのは犬である大島達だし、議論しようと言い出したのは里中だ。しかし、クラスメイト達の中に浮かんだのは、満達に対する不満であった。
精神の幼い彼らのコントロールの仕方を里中はよく分かっていた。
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