第15話

 少女は笑いながら満に話しかけてきた。


「何してるの?」

「え? 本、探してた」

「うそー、こっち睨んでたよ」

「睨んでないよ!」

「睨んでたよー、目だけこっちに向けてさ」

 そう言って少女は満の真似をして、半身になり目だけを満に向けてきた。その顔は確かに睨んでいるように見えた。


「……ごめん。ここに人いるの珍しいから」

「あー、だよね。私も人いるの初めて見た」

「穴場だよね」

「君、何年生?」

「僕は五年、君は?」

「一個下か、私六年」

 満は少女を同い年かもしれないと思っていたが、どうやら上級生だったようだ。松木小学校は全校生徒五百人に満たないとはいえ、それでも一学年八十人近くの生徒がいる。同級生ならともかく、他学年であれば見覚えがない事もあるだろう。


「どんな本探してたの?」

 少女の問いに、満は戸惑う。ファンタジーや冒険小説はともかく、ホラーやモンスター系が好きと答えると、根暗だと思われて引かれやしないかと思ったのだ。


「ファンタジーかな。小説なら何でも」

「ファンタジーかぁ。じゃあ……これ面白いよ」

 そう言って少女が指差した「魔法学園シリーズ」は、既に満が読破したシリーズであった。


「それはもう読んだ」

「じゃあ……これは?」

 次に少女が指した「腕輪物語」も、満は既に読破していた。


「それも読んだ」

「えー、五年生なのに結構難しいの読んでるんだ」

 そう言って少女は更にオススメの作品を探し始める。満は少し申し訳ない気持ちになると同時に、少女とは友達になれるような気がしていた。


「ファンタジーかぁ。私ホラーとかなら結構読むんだけどなぁ……君怖がりっぽいしホラー読まないよね?」

 何気なく呟いた少女の言葉に、満は咄嗟に反応した。


「好き! 怖いやつ!」

「え?」

「……本当は、ホラーとかが一番好き」

「さっきファンタジーが好きって言ったよ」

「ファンタジーも好きだけど、ホラー好きって言ったら根暗に思われるかと思って……」

 モジモジしながらそう言った満を見て、少女はまた笑った。


 その後、満と少女は互いにまだ読んでいないであろうオススメのホラー小説を探し合いっこし、夕方までホラー談義を続けた。


 その中で、少女は自らを「押切保志香おしきりほしか」と名乗り、満も自らの名を名乗った。


 それから、保志香は訳あってあまり学校に行っていない事も教えてくれた。満は詳しく話を聞きたかったが、あまり突っ込んで話を聞くと、せっかく知り合った保志香との関係がすぐに崩れてしまいそうで、深くは聞かなかった。


 二人で資料館を出た別れ際、満は保志香に尋ねた。


「押切さんはどこに住んでるの?」


 保志香は満の家とは反対側、向日葵畑のある方向を指差す。


「向日葵畑の向こう」


 満は毎年母や祖母と一緒に、見頃になると一面に黄色い花を咲かせる向日葵畑を見に行く。その向日葵畑の奥に、割と新しい家が数軒建っているのを満は覚えていた。そのどれかが保志香の家なのだろう。


「じゃあ、


 保志香はそう言って小さく手を振ると、満に向日葵のような笑顔を見せて背を向けた。

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