第16話
「おい! みっちゃん!」
週を跨いだ火曜日の朝、満が登校中に団地の前を通ると、団地の入り口から敷島が走って来るのが見えた。二人は学校へ向かって歩きながら、昨日の放課後に立てた作戦の話をした。
「いよいよ作戦開始だな」
「うん」
「あー、なんか緊張してきた!」
昨日、月曜日の放課後、先週の金曜日に決起した六人は再び運動公園に集まり、互いに持ってきた里山の悪事を録画・録音できそうな物を見せ合った。
松村が持ってきた家庭用ビデオカメラと、西之原と市原が持ってきたデジカメは、高価なため、万が一バレて没収されたり壊された時がまずいという事で却下された。
同じ理由で真瀬田のスマホも却下されそうになったが、スマホのボイスレコーダーは録音になら使えるので、予備として仮採用された。しかし音声だけでは里中に誤魔化されないかという不安がある。やはり明確な証拠として、里中が暴行している動画を安全に残せる機器が必要であった。
そこで作戦実行に本採用されたのは、意外な事に敷島が持ってきた開閉式の古いガラパゴス携帯であった。
『今時パカパカ? それも壊されたらまずいっしょ?』
そう言った真瀬田に敷島は首を横に振る。
『大丈夫。これ、親父がムショ行く前に使っていた携帯だから。もう電話とかできないけど、充電すればカメラは使えるんだぜ。画質荒いけどな。しかも超古いから音もオフにできるし、SDカード式だから、いざとなればカードだけ抜けばデータは残る』
更にその携帯はガラパゴス携帯の中でもかなりの小型で、隠し撮りに適していた。満にはその携帯が、里中に侮辱された敷島の父が敷島に残してくれた神器のようだと感じた。
「へへ、バッチリ充電してきたぜ」
敷島はそう言ってランドセルから携帯を取り出し、満に携帯を手渡す。なぜ敷島が満に携帯を渡すのか、それは満が撮影の実行者だからだ。
撮影機器が用意できたところで、問題となったのが「どう撮影するか」だ。
『そりゃ俺だろ、俺が持ってきたんだし』
そう言った敷島に真瀬田が反論する。
『いや、それ厳しくない? あんた席前の方じゃん』
そう、敷島の席は廊下側から二番目、更に前から二番目の席だ。もし誰かが授業中に吊るし上げを喰らったとして、振り向いて撮影をするのはあまりに不自然である。
携帯自体を何か物に隠して盗撮するというアイデアも出たのだが、教室内全体を撮影でき、尚且つ絶対にバレそうにない場所は誰も思いつかなかった。
結局撮影は手動で行う事となり、一番窓側の席で、後ろから二番目に座っている満が行う事に決まった。
「みっちゃん、いけるか?」
「……わからない」
そう、わかるはずがない。
いつどこで里中の凶行が始まるか予想する事もできないし、それに咄嗟に対処する練習もしていないのだ。満がした事はただ携帯の操作の確認だけだ。そして見つかればどんな目に遭わされるかも想像つかない。
「まぁ、最悪撮影の練習だけでもできればいいからさ、無理はするなよ」
「……うん」
気楽に構えている敷島が、満には僅かに恨めしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます