第21話
その日の午前中は一時間目の一件以外は何事もなく終わり、満とペンケースの活躍もなく昼休みを迎えた。
満、敷島、真瀬田、市原の四人が昨日と同じように理科室に集まっていると、少し遅れて西之原が理科室に入ってくる。満達が昼休みに集まる時は、纏まって移動する所を里中に見られてはまずいという事で、少し時間をずらして二人ずつ理科室に集まるように決めていた。
「ニッシー、まっちゃんは?」
敷島が尋ねると、西之原は苦笑いを浮かべて顔の前で手をブンブンと横に振る。
「ダメダメ、あいつ全然喰わない」
今日の給食にはピーマンの和え物が出たのだが、松村はピーマンが苦手であり、それを食べ終わるまで里中が席を立つ事を許してくれないのだ。
五人は仕方なく西之原抜きで会議を始める事にする。
「しかし一時間目はビビったな。絶対バレたかと思った」
口火を切ったのは敷島の言葉に、四人は激しく首を縦に振る。
「マジマジ! マジヤバかった。りゅうちゃんも手挙げようとしてただろ?」
「もうタイミング測ってたよ。ニッシーも明らかにスタンバってたもんな」
敷島と西之原は、昨日の言い争いの事はすっかり忘れているようだ。
「でもさー、アレだよね。沙織がどういうつもりなのか」
真瀬田が口にした「沙織」とは、今日奇しくも満の危機を救った矢上の下の名前だ。矢上の行動について、満は午前中ずっと気になっていたのだ。
「偶然だろ。あいつが俺達の作戦知るはずねぇし」
「しかも矢上さんは犬だろ? 俺達を助ける理由なんて無いじゃないか」
敷島と西之原の言う通りであった。六人の作戦が矢上に漏れる理由は見当たらず、作戦を知っていたとして矢上が満を助ける理由は無い。そもそも、もし矢上に作戦が漏れていれば犬である矢上は里中に報告するはずである。
「あんたら誰にも喋ってないよね?」
真瀬田の問いに四人は首を横に振る。
それから四人がいくら考えても、矢上の行動の謎は解けなかった。
昼休みが中程まで差し掛かった頃、誰かが理科室のドアをノックした。敷島がドアに近付くと、ドアの向こうから松村の声で「山」と聞こえた。
「合言葉とかねぇから」
敷島がドアを開けると、そこには目を赤くした松村と、その後ろにはつい今まで噂になっていた矢上がいた。
「……おい、まっちゃん、どういう事だよ?」
「まぁまぁ、取り敢えず中に入れて。他の人に見られたらまずいし」
戸惑う敷島を尻目に、松村は矢上を理科室に招き入れる。そして辺りに誰もいない事を確認してからドアを閉めた。
何も言わぬ矢上を前に、五人は混乱しながらあれこれと切り出す言葉を考える。そんな中、真瀬田がこの場で最も適切な質問を矢上に投げた。
「ねぇ、里中は私達の事知ってるの?」
「知らないと思う。麻里達が誰にも喋ってなければね」
間髪入れずに矢上から出てきた答えに、満はひとまず胸を撫で下ろした。
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