第27話
今日、何度目かの沈黙が訪れる。
十秒。二十秒。
皆は何か言い出そうと互いの顔を見るが、何を言い出せばいいのか分からないのか、もしくは誰かがこの空気を変えるのを待っているかのようであった。
「ふざけんなよ……」
そう敷島が呟いたのは、電話が切れてからたっぷり三十秒が過ぎた頃だった。
「やべぇよあいつ、なんなんだよ!」
全てが里中に知られた。
それはほぼ確実であったとはいえ、それを認識すると改めて自分達がマズイ状況に置かれている事が理解できた。気丈な真瀬田も、陽気な松村もその表情には不安と困惑が浮かんでいる。しかし、その中でも西之原はまだ冷静な方であった。
「あれは、警告か戦線布告……なのかな?」
西之原の言葉に、不安に支配されていた満にも思考がジワリと戻ってきた。
先程の電話は里中が大島達に命じてかけさせたものであろう。そして、それはあまりにも芝居掛かった「演出」がされていた。
「私は……あいつは私達を怖がらせて遊んでるみたいに感じた。だって普通、大島達を使ってあんな……ホラー映画みたいな事しないだろうし」
真瀬田は深呼吸をして、恐る恐るベッドに投げ捨てたスマホを手に取る。
「でも、あの電話が里中の遊びだとしても色々ヤバいよね。僕達明日からマジ何されるんだろ……」
松村は極力明るい口調でそう言ったが、その声は上ずっていた。市原に至ってはランドセルを握りしめて今にも泣き出しそうである。
そんな中、西之原が空気を変えるために自分の顔をバシバシと叩いて立ち上がった。
「あー! ダメだ! ビビっててもしょうがない! ちょっと今の状況を冷静に考えてみよう」
満には西之原が明らかに無理をしているように見えたが、それでも今は怯えているよりも、西之原の言う通り考える事が大事だと思った。
「まず、俺達が最悪の状態まで落ちたのは間違いない。里中に全てが知られて、証拠は消された。そしてあいつは俺達全員の名前を把握していた。それは誰かがあいつに俺達の事を教えたって事だ」
証拠。
里中の暴力行為を記憶したSDカードは里中の手に渡り処分されたと考えて良いだろう。そして、大島達は歌に混ぜて満達全員の名前を口にした。それは満達がチームで動いている事とそのメンバーを誰かが里中に知らせたという事だ。ただ満の撮影と真瀬田の録音に気付いて証拠を処分しただけでは、敷島達全員の名前が出てくるはずがない。矢上のように偶然満達が集まっているところを見たのであれば別であるが。
「沙織……じゃないよね?」
矢上沙織。
里中は電話で矢上の名前も口にした。
「犬」でありながら里中を疎ましく思っていたの彼女の名前を。そして彼女を「いらない」と言った。
それは矢上が本当に満達側につこうとしてくれていた事の証明となったが、矢上が里中に知らせたのでないとすれば、問題は満達の事と矢上の裏切りをなぜ里中が知っていたかという事である。
「違ったって事になるよな。とりあえず矢上にこちら側について貰う事は確定じゃないか? それから、里中達が裏切った矢上に対して何するかはわからないけど、何かしらの罰や報復を受けるかもしれないし、助けられる状況なら助けてあげたいと思うんだけど、どうかな?」
皆は少し考えて西之原の意見に賛成したが、敷島は一言あるようだ。
「まぁ、矢上を助けたい気持ちはあるけどさ。もしかしたらあの電話も罠なんじゃないか? 里中が俺達の行動を把握するために、矢上を完全にこちらに送り込むための」
それは満も考えた事であった。
なぜなら矢上が里中に告げ口をした以外に、満達の事が里中に知られた理由が思いつかないからだ。もし矢上を完全にこちらに潜り込ませるための罠だと考えれば、先程の芝居掛かった電話にも納得がいく。
里中としては、満達の行動は非常に厄介であるはずだ。満達を放置していては、手段を変えてまた映像を残される可能性がある。そうなればもう今までのように好き勝手に振る舞う事は難しい。だから満達の作戦を全て把握するために矢上を送り込もうとしている可能性は十分にある。
敷島の予測に、皆はまた考え込む事となった。
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