第25話

「……ねぇ、私達これからどうなるの?」

 市原は今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。

 里中が満達の存在を知った以上、必ず何か仕掛けてくるはずだ。仕掛けて来ない筈がない。明日から六人を集中していびりにくるか。もしくは誰か一人を徹底的に吊るし上げるか。いずれにせよ明日からはこれまで以上に里中に怯える日々が待っているはずだ。


 満は後悔していた。

 こんな事になるならば最初から何もしなければ良かったとすら思った。


 皆がうつむく中、敷島が松村を睨む。

「お前が矢上なんか連れてくるから!」

 松村は驚き、反論する。

「ぼ、僕のせいじゃないよ! だって矢上さんは窓から覗いてたって……!」

「カマかけたのかもしれないだろ!」

「だったらなんで矢上さんは昨日みっちゃんを助けたのさ! それに矢上さんは体育の時に遅れてきたりしてないよ!」

「んな事知るかよ!」


 敷島が今にも松村に掴み掛かろうとしたその時だ。


 〜♪


 不意に、真瀬田のスマホから着信を知らせる音が鳴り響く。真瀬田はスマホを手に取り、着信画面を見る。そこには「矢上沙織・自宅」と表示されていた。


「……沙織からだ」

 それを聞いて皆は顔を見合わせる。そして敷島が真瀬田に電話に出るように促した。真瀬田は頷き、スピーカーホンに切り替えると着信ボタンを押した。


『もしもし、麻里?』

「うん。何?」

『今日敷島君達と帰るとこ見たんだけど、今みんな一緒?』

「うん。どうしたの?」

『どうしたのって……あれに決まってるでしょ。動画ちゃんと撮れてたの? 今日二回もチャンスあったじゃん。いけたのか気になって電話したの』


 矢上の言葉に、皆はまた顔を見合わせた。


「ねぇ、あんた里中に私達の事喋った?」

『は? 喋るわけないじゃん。何で?』

「大島とか、他の人には?」

『だから喋るわけないじゃん。何かあったの?』

「……あのね、多分体育の時間だけど、誰かにデータ消されてたの。動画も、音声も」

『は? 何で? 本当に? それヤバいんじゃない?』

「ねぇ、何か知らない? 本当に誰にも言ってない?」

『だから誰にも言ってないって! そもそも言う意味無いじゃん。私もババ先に出て行って欲しいんだから』


 真瀬田と矢上の会話に、敷島が割って入る。


「犬の言う事が信じられるかよ! お前スパイだったんだろ!?」

『誰? 敷島君? あのさ、私は別に敷島君達の仲間になったわけじゃないから信用されなくても仕方ないだろうけど、本当に私喋ってないからね。チクるんだったら一昨日の時点でチクッてるから』

「それもババ先の作戦なんじゃねぇのかよ」

「だーかーらぁ、知らないって。まぁ、もしできれば大島さん達に探り入れてみるから。それから……なんて言ったらいいかわからないけど、明日から気をつけて。あと、ご愁傷様。以上!」


 そう言い残して矢上は電話を切った。

 今の会話で矢上が黒か白かは判断しかねるが、満はなんとなく矢上は白ではないかと思った。矢上の言う事には正当性があったし、もし黒であればわざわざ電話してきたりする理由が無いからだ。


「どう思う?」

 敷島の問いに、皆はただ首をかしげる事しかできなかった。

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