第24話

「はぁ? 間違って消したんじゃねぇの?」

「そんな事するわけないじゃん!」

「いいよ別に、そっちはおまけみたいなもんだし、みっちゃんが撮った動画だけあれば十分だろ。ニッシー頼むわ」


 西之原は頷き、携帯からSDカードを取り出そうとカードの挿入口のカバーを外す。そしてピタリと硬直した。


「みっちゃん。カードは?」

 満には一瞬、西之原の問いの意味が分からなかった。


「カードだよ、動画の入ったSDカード!」

「入ってるでしょ?」

「入ってないんだよ!」


 西之原の言葉に、満の顔も真瀬田と同じように青くなった。


 そんな事があるはずがなかった。

 満は敷島から携帯を受け取った月曜日から、SDカードを取り出した事が無かったからだ。松村から携帯を返してもらった時も、SDカードが挿入されているのは確認している。


「いや、ちょっと待って! 本体データ確認してみるから!」

 西之原は僅かに震える手で携帯を操作する。

 室内には西之原が携帯を操作するカチカチという音だけが響き、皆は西之原を固唾を飲んで見守る。


 しかし、現実は無情であった。


「無い、無いよ! 本体データにも無い!」

「んなわけねぇだろ! 昼休みにはちゃんと見れたんだから! 貸せよ!」

 敷島は西之原から携帯をひったくると、素早くデータフォルダを開く。しかしそこには西之原の言う通り、里中の暴行動画は残っていなかった。


「うそ……なんで?」

 ポツリと呟いた市原の問いに、答えられる者は誰もいなかった。外から聞こえる雨音が、満の背中をぞわぞわと泡立てる。


 昼休みまであったものが今は無いという事は、何者かが昼休みから今までの間に、真瀬田のスマホから音声データを消し、敷島の携帯からSDカードを抜き取ったという事だ。


 しばらくして、重い沈黙を破ったのは敷島であった。


「体育の時間だ。体育の時間に里中の奴がデータを消して、カードを盗んだんだ」

 敷島の言った事は恐らく当たっているであろう。

 満は体育の時間以外はほぼ自分の席にいた。もし満が席を離れていた僅かな時間に盗みを働こうとすれば、教室内にいた誰かに見られる危険性が高過ぎる。盗むとしたら体育の時間以外には無い。しかも里中は、今日の体育の時間に数分遅れて体育館に現れたのだ。


「でも、私のスマホロックかかってるんだよ?」

「どうせ誕生日とかだろ? そんなのあいつなら予測して開けるって!」

「待って、里中じゃなくて矢上さんの可能性はないか?」

「そんなのどっちだって一緒だ! 矢上が敵でも味方でも、カードを取られたって事は全部バレてるって事だろ!」


 そう、敷島の言う通りであった。

 誰がデータを消し、カードを盗んだのであれ、里中が六人の反乱分子の存在に気付いた、あるいは気付いていたという事は間違いないだろう。


 満はこれから自分がどうなってゆくのか、それが不安でしょうがなかった。

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