第46話

 昼休み。

 満、西之原、松村、矢上の四人は、市原を含む大島達犬のメンバーと共に体育館裏にいた。


「で、何?」

 満達に連れて来られた大島は腕を組み、不機嫌そうな言葉を満達に投げかける。あのような目に遭っても相変わらず高飛車なその態度に、西之原は困り顔を浮かべた。そして満の顔を見て頷くと、大島達に向き直る。


「あのさ、大島さん達って何で里中の子分みたいな事やってるの?」

 西之原の問いに、ただでさえ不機嫌そうであった大島の表情は更に険しくなった。


「あんた達に関係ないでしょ」

「いや、まぁそうなんだけどさ。このままじゃ大島さん達もまずいだろ?」

「まずいって何が?」

「ほら、昨日の放課後の事とか、二時間目の休み時間の事とかさ。このままじゃ大島さん達、楠原さん達に何されるかわからないよ」

「何? 脅し?」

「いやいや、違うって。脅しとかじゃなくてさ。俺達としては、このまま大島さん達が楠原さん達にいじめられるっていうか……ほら、仲悪いままっていうのは良くないと思うんだよね。んでさ、俺達が間に入るからなんとか仲直りして貰えないかなぁって思ってさ。どうかな?」

「イヤ」


 西之原の頼みに対する大島の答えは即答であった。


「何で私達があいつらと仲良くしなきゃいけないわけ? さっきも見たでしょ? あいつらの野蛮な行動。寄ってたかって唾かけるなんてガキじゃあるまいし」

「いや、気持ちはわかるけどさ、俺達としては平和な学校生活の為に打倒里中活動をしてたのに、そのせいでクラス仲が前より悪化するなんて嫌なんだよ。これもクラスのみんなのためだと思って、何とか今までの事は水に流して、楠原達と仲直りしてくれないか?」

 そう言って西之原は頭を下げて、大島に手を合わせる。


 数時間前に満が思いついた作戦とは単純なものであった。

 それは満達が、大島・楠原のどちらかの陣営につくわけではなく、両者の間に立ち、仲を取り持つという作戦である。

 互いを引き合わせて仲直りをさせれば、楠原達の一方的な攻撃は治るのではないかと考えたのだ。その為にはまず両陣営を説得して、話し合いの場を設けねばならない。そこで満達は、まずは昼休みのうちに大島達を体育館裏に呼び出して説得する事にしたのだ。


「だから、あんな奴らと仲良くするなんてイヤだってば。大体あんた達は先生をやっつけたって思ってるかもしれないけど、あんなの一時的なものでしょ。先生が学校に出てきたらあいつらもビビって何もできなくなるに決まってるじゃん。あんた達も覚悟しておいた方がいいんじゃない?」


 大島の言う通り、問題は楠原達の大島達への攻撃もそうであるが、それ以上に満達にとって気になるのは里中が復帰してからの満達への報復である。

 もし里中が何か企んでいるとするのであれば、大島達が里中側についているのはよろしくないし、里中を完全に黙らせるにはクラス全体が団結しているに越した事はない。だから満達は、せめて大島達を里中から引き剥がしておきたいのだ。


「あのさ、昨日と今日の事で楠原達にムカついてるのはわかるけど、そこんとこどうにかならないかな。矢上にも話聞いたけど、別に楠原さん達は里中に弱み握られてたり脅されたりしてるわけじゃないんだろ?」

 大島達を懐柔するにあたって、満達は元「犬」である矢上にも話を聞いた。

 里中は新学期が始まってすぐに、大島や矢上達、真面目な女子が集まっているグループに声を掛けてきたそうだ。「クラスの治安維持の為にあなた達の力を貸して欲しい」と。


 グループのリーダー格であった大島がそれに了承した事から、大島達は里中の「犬」となったらしい。ただ、いつも真瀬田の金魚のフンをしていた市原だけはその場にはいなかったようだが。

 つまり、大島達は里中が掲げる大義名分に従っているだけであり、里中自身に付き従っているというわけではないのだ。


「先生は私達を脅したりしない。先生が罰を与えるのはあんた達みたいに自分の事しか考えてないバカだけだから」

 なるほど、満は大島達を「里中の攻撃から逃れるために里中に従っている自分勝手な人間」だと思っていたが、向こうからすれば逆であったらしい。

 温厚な性格の西之原も大島の言葉にはカチンときたようだが、なんとか自身を宥めすかして話を続ける。


「じゃあ、大島達も俺達も目標は一緒ってわけだ。お互い平和なクラスを求めてる。そうだろ?」

「一緒にしないでよ。あんた達はただ先生が気にくわないだけでしょ?」

 大島の言っている事はあながち間違っていない。

 発端は先々週の敷島の一件ではあるが、里中の大義名分が本心であるとすれば、里中の描く理想のクラスと、満達の描く理想のクラスが食い違っているために、里中と満達が争う事になったのだ。


 その時満は、文明が進んだこの世界で、なぜ戦争という愚かな行為が行われるのかがわかったような気がした。

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