第30話
翌日の木曜日。
満が登校してくると、矢上の机の周りには矢上と真瀬田と市原が集まっており、三人で矢上の机を雑巾で拭いていた。
何があったのか話を聞くと、矢上が朝登校してくると、机にはマジックペンで罵詈雑言が落書きされており、その上にはゴミが撒き散らされてえらい有様になっていたのだと言う。恐らく大島達による裏切りの報復であろう。
満が大島達の方を見ると、大島達は犬同士で集まっており、こちらをチラチラと見ながらニヤニヤとしていた。
矢上の机を掃除し終えた後、真瀬田は矢上の背中をポンポンと叩き、「気にしないで、夏休みまでにはケリつけるから」と言った。
昨日の会議の後、真瀬田は矢上に裏切りがバレている事と、今後の満達の作戦を電話で伝えていた。そのおかげか、今朝の一件に関しては矢上の精神的ダメージはあまりなかったようだ。矢上はただ「ありがとう」とだけ言った。
満達にも何かしらの攻撃があるかと思って覚悟をしていたが、その日は里中からも、そして犬達からも、不思議な事に何もされる事はなかった。
そして満達はその日のうちに、休み時間や放課後を利用して、犬を除くクラスの殆どの生徒達に声を掛けて回った。犬達の目を気にしなくて良くなったおかげで、満達の声かけ活動はスムーズに進んだ。
喜び勇んで仲間になる事を約束してくれる者、面倒くさがる者、里中を恐れて断る者と、クラスメイト達の反応は様々であったが、誰も満達の行動に反対する者はいなかった。
その結果、五年一組の全生徒三十八人中、満達を含めばクラスの半数以上が、反里中同盟に参加してくれる事となった。積極的ではないが、賛同だけはしてくれる者を含めば更に増える。予想以上の手応えに満達は喜んだ。やはり皆、里中に対してフラストレーションが溜まっていたのであろう。
その日の放課後は、晴れていたために運動公園でミーティングをした。
グラウンドの方では西之原が参加しているサッカー少年団が、昨日の雨で湿った地面に悪戦苦闘しながらボールを追いかけている。そしてボールを追っている西之原の代わりに、今日は矢上がミーティングに参加していた。
「あとは犬だよねー。あいつらが邪魔してきたらウザくない?」
真瀬田はコンビニで買ったアイスキャンデーを齧りながら上機嫌に呟く。
「明日は一応あいつらにも声かけてみようぜ。まぁ、今日の事を矢上に謝るなら仲間にしてやってもいいけどな」
そう言った敷島も、今日の手応えを感じてか機嫌が良さそうであった。
「謝るとかいいよ別に、里中がおとなしくなれば大島さん達も元に戻るだろうしさ。まぁ、こっち側についてくれるなら心強いけどね」
矢上はやはり少し落ち込んでいるようではあったが、今朝の件で完全に満達側につく覚悟をしたようだ。
「最初からこうしておけば良かったね。盗撮作戦も楽しかったけどさ」
松村の「楽しかった」という言葉に、皆は苦笑いを浮かべる。
「まぁなんにせよ、この調子でいけば俺達は平和な夏休みを迎える事ができるってわけだ」
敷島がそう言った時、グラウンドの西之原がタイミングよくシュートを決め、得点を知らせるホイッスルが辺りに響き渡った。
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