第45話

 満も楠原達の気持ちが分からないわけではない。

 大島達のせいで嫌な目にあったし、里中の庇護の下で偉そうな振る舞いをしていた大島達を憎らしく思う気持ちはある。

 しかし、楠原達の所業は決して良い事ではない。昨日の件で里中が大人しくなろうとも、その結果クラスメイト同士でいがみ合いが始まっては意味がないのだ。それが一方的な暴力やいじめであっては尚更だ。


 楠原達の大島達に対する報復は一時的なものだと満は考えていたが、先程の件を見るとどうもそうではないようだ。このままでは大島達が報復の名の下にどんな目に遭わされるかわかったものではない。


 クラスの歪みの大元が里中であるのは間違いないが、里中を撃退するのに満達が尽力し、その結果大島達が楠原達に過剰な報復を受けるようになったのであれば、満達がその原因を作ったとも言えなくはない。であれば、楠原達の報復を止めねばならない責任が満達にもあるのではないだろうか。


 しかし、楠原達が簡単に言う事を聞いてくれるとは思えないし、楠原達には満の言う事を聞く義務もない。

 楠原達は楠原達なりに正しいと思っている事をやっているだけなのだから、それがいかに歪なものであろうとも、満達にはそれを強制的に止める権利はない。満達自身が楠原達に攻撃を受けているのであれば堂々と対処はできるが、他人の揉め事に首を突っ込むというのはやはり難しいものだ。


 面倒。

 里中の相手よりもよほど面倒な事になったと満は思った。

 里中は強敵ではあったが、まだ戦う事ができた。それは満達が自らの「正義」を背負う事ができたからだ。しかし、今回はそう簡単にはいかない。楠原側に付くわけにはいかないし、大島側に付いてはクラスメイトの大半を敵に回す事になりかねない。満達は第三者として争いに介入せねばならないのだ。いや、介入するかどうかから考えねばならないのだ。


 大島達が可哀想であるから助けるというのは、どちらかといえば満の主義に合わない。満は自らが日和見主義である事を理解しているし、一喝で揉め事を治められるほどクラス内での影響力も強くない。里中に一泡吹かせた敷島グループの一員だということを考慮してもだ。これまでも学校生活でいじめなどを目撃した事もあったが、満はそれに参加したり助けたりもしなかった。そういう性格なのだ。


 そもそも大島達を助けたとして、明日だか明後日から里中が学校に出てきたら今後がどうなるかはわからない。もし里中がこれまでよりも更に卑劣で、満達が対処しようもない攻撃を仕掛けてきたとして、犬である大島達もそれに協力するかもしれない。

 そうなれば自分達で自分達の首を絞め、更に楠原達を敵に回すリスクも背負う事となる。里中であれば状況次第では楠原達を抱え込むという作戦を取る可能性も大いにある。楠原達は信念を持たず自分勝手な行動をする。メリット次第ではあっさり里中に寝返るであろう。であればやはり大島達を救うべきではないのかもしれない。


 楠原にもうこのような事はしないように説得している西之原と、服のあちこちに唾液の跡をつけて教室に戻ってきた大島達を見て満は更に考える。

 このクラスに平穏をもたらすためにはどうするべきかと。


 そして、一つの方法を思いついた。

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