第19話
その翌日の事だ。
朝、満が学校に登校すると、三階に上がった所で待ち構えていた松村が満を男子トイレに引きずり込んだ。
「みっちゃん。昨日借りたアレ、できたよ」
そう言って松村がランドセルから取り出したのは、布製の化粧ポーチのような、大きめの筆箱のようなものだ。ポーチにはあちこちにレトロなボタンが縫い付けられており、手作り感はあるがお洒落なデザインである。
「これ何?」
満が尋ねると、松村はトイレの周りに誰もいない事を確認して、ポーチのジッパーを開く。するとその中には、昨日松村が持って帰った敷島の携帯が開かれた状態ですっぽり入っていた。更にポーチの内部には携帯を固定するホルダーまでも縫い付けられている。
「これならバレずに撮れるっしょ?」
松村は誇らしげに笑うと、ポーチ外側に付けられたボタンを一つ外した。するとそこには小さな穴が空いており、ポーチ内で固定された携帯のカメラレンズが覗いていたのだ。
「凄い。これまっちゃんが作ったの?」
「まさかぁ〜。考えたのは僕だけど、作ってくれたのは姉ちゃん。姉ちゃん裁縫得意だからさ」
満は以前、松村の姉が高校の演劇部で衣装を作っているという話を聞いた事を思い出す。その時は、松村が姉に変身ヒーローの衣装を作ってくれと頼み、「バカじゃないの」と言われて断られたという笑い話だったが、まさかこんな形で松村の姉に力を貸して貰う事になるとは思わなかった。
後程、満達より遅れて登校してきた敷島と西之原をトイレに引きずり込み、松村の用意したポーチを見せると、二人は興奮した様子で「これならいける!」「まっちゃんやるじゃ〜ん!」とはしゃいでいた。昼休みには真瀬田と市原にもポーチの事を伝えると、その二人も松村の行動に感心しており、いつも澄ました顔をしている真瀬田もテンションが上がっているようだった。
「俺達だってさ、やればある程度の事はできるし、頭使えばいいアイディアも浮かぶんだよ。だからりゅうちゃんもニッシーももう昨日みたいに喧嘩するなよ。ババ先の事で僕等が喧嘩するなんてバカらしいじゃん」
ポーチのお披露目の後に松村が言ったその言葉が、満には深く印象に残った。
その日は練習として、満はポーチを筆箱として使い、授業中に何度かカメラを起動したが里中にバレる様子も、背後に座る矢上に不審がられる様子も無かった。穴とレンズのズレで映像は不鮮明な部分があったが、それは調整と穴を少し広げる事で解決した。
こうして、撮影作戦は再び実行に移される事になったのだ。
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