第40話 危険合成生物との戦い方

 頭と足はトラ、胴体はタヌキ、尻尾はヘビ、という中途半端なクリーチャーになった鵺。頭がイヌだった頃より明らかに危険だ。凶暴なトラ、というだけでこれまでworkerとして出くわした関数のなかでも圧倒的にヤバイ。しかもおまけに蛇までついている。


「グルルルル…」


 鵺が喉をうならせながらサイトウにじりじり近づく。


「これ、さっきよりやばくないですか?」


「この程度なら問題ねえよ。だがさっさと説明に戻りからな、を使うか」


 そういってサイトウはカバンに手を突っ込む。


 サイトウはゆっくりとカバンから手を抜く。その手に握られていたのは木の枝だった。鵺が大きくトラの顔をしかめる。おいおい大丈夫なのか。


「ほれっ」


 サイトウは木の枝を放り投げた。


 鵺が姿勢を低くし、木の枝のにおいをクンクンとかぐ。そのままうずくまったかとおもうと、リラックスした表情になりおとなしくくつろぎ始めた。


「これがマタタビの威力よ」


 サイトウが誇らしげにおれにそう言い、さすまたを地面に置いた。無防備に鵺に近づいていきトラの頭をなではじめた。


「よーしよし、カウントエーカウントエー」


 鵺もリラックスしきっており、ごろにゃーんとでも言わんばかりにサイトウにハラを見せて寝転がりはじめた。尻尾のヘビだけが少し所在なげにきょろきょろと首を振っている。サイトウはトラの喉をなでながら処理を続ける。


「カウントエーカウントエー。あ、タカハシ、おめえもやっか?気持ちええぞ」


 こいつなにを言ってるんだと思う一方で、目の前で起きていることが異常すぎて感覚が狂ってきた。


「え、じゃあちょっといいですか」


 おれはおそるおそる近づいて、トラの喉に触れる。や、やわらかい。凶暴な動物だからけも髪の毛みたいな硬さをしているものだと思っていたが、むしろふぁさりとやわらかい。癖になる感覚だ。


「これがモフモフってやつですか」


「もふもふ?いい表現じゃねえか。ああ、これがモフモフだよ」


 そのとき、急に首筋に冷たいなにかが触れる。耳元でシャーという声。振り返ると蛇の頭がすぐ横にあった。血の気が一気に引く。まずい、完全に油断していた。


 ヘビが首に巻き付いてくる。なんとか腕を挟み込んだが、ぎゅうぎゅうと締め上げてくる。やばい。腕が折れる。


「さ、サイトウさん、た、たすけて…」


「あ、わりわり。うっかりしてたわ。ちょっとまってろ」


 よっこらしょと言ってサイトウは立ち上がる。そしておもむろにおれに巻き付いているヘビの首を両手でつかみ、無言で締めはじめた。


 ヘビはサイトウの手首にかみつこうと首をひねりながら口を動かすが、首根っこをつかんだサイトウには届かない。しばらくすると抵抗が消え、ぐったりと体を弛緩させた。おれの首を絞めようとする力も弱まり、おれは


「インダイレクトインダイレクトインダイレクトインダイレクトインダイレクトインダイレクトインダイレクト」


 ぐったりとひらいたヘビの口から火の玉が浮き出る。


「アレイフォーミュラ」


 サイトウはすぐにそれを処理した。


「あ、ありがとうございました。死ぬかと思いました」


「すまねえな、ちょっと遊びすぎたわ。こいつも処理しとくか。カウントエーカウントエーカウントエーカウントエーカウントエーカウントエーカウントエー。またな」


 トラの口からも火の玉が浮き出る。


「アレイフォーミュラ」


 トラとヘビの要素が抜けて、ただのタヌキがそこに残った。



※参考文献

危険動物との戦い方マニュアル (「もしも?」の図鑑)(今泉 忠明 著, 監修)

https://www.amazon.co.jp/dp/4408455032

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