第43話 打ち上げ

 サイトウとおれは仕事おわりに詰め所でビールを飲んでいた。


「どうだ?おめえもworkerとしてちょっとはさまになってきたんじゃねえか?」


「んー、そうでしょうか。今日もまともに処理できたのはARRAYFORMULAが取り憑いたVLOOKUPぐらいですし、あれも正直かなり危なかったです」


「まあいいじゃねえか、おめえのworker歴ならわるくはねえよ。ARRAYFORMULAも処理できたし、GoogleSpreadsheetsの独自関数もそれなりにわかってきたじゃねえか」


「そうですね。たしかにExcelにない関数のことも少しはわかってきました。でも今日はそれ以上にExcel関数にも自分が使ってこなかった関数がたくさんあるってことをを痛感しました。CELLやROW、INDIRECTみたいな自分ではほとんど使ってこなかった関数をうまく使っているユーザーさんがいるのを見てしまって、正直ちょっと自信をなくしています。会社でExcel職人なんて言われてきて自分でもまあまあ知識は多い方だと思っていたのですが、いまじゃ自分でExcel職人なんて言うのはおこがましいような気がしてしまって…」


「なんだ、ナイーブなやろうだな。そんなこたあworkerがみんな通る道なんだよ。そもそもExcelなんてのはたいていカネとか客の情報とか外には見せられねえ情報が詰まってるからな。他人が作ったExcelなんてなかなか見る機会がないわけよ。本やネットに出てくる情報だってほとんどは断片的なハウツーで現場のモノそのままじゃねえわけだろ?」


 たしかにそうだ。広告主とのやりとりでExcelを使ったりはするが、あくまで出来上がったレポートであって関数は消して値張りしていた。


「そうやって外のことを知らねえところからworkerになる。それでいろんな現場をふむとおまえさんと同じことを思うわけよ。おれは全然だめだ、ってな」


「サイトウさんもそうだったんですか」


「もう忘れちまったがそうだろうな。まあおれのことはいいんだ。大事なことはおめえさんがworkerとしていまここにいるってことだ。Googleだってバカじゃねえんだ。資格だけ持ってて実務の浅いやつや誰かが作ったシートの更新しかしてこなかったような半端もんはここには連れてこねえ。タカハシ、おまえさんはGoogleにExcel職人として認められたからここにいるんだよ。そのことを忘れんな」


 おれは自分の人生が認められたような気がして少し目頭が熱くなった。どうにも気恥ずかしくなったのでおれは手元のビールの残りを一気にあおって言った。


「わかりました。今後も頑張りますんで、なにとぞよろしくお願いします」




 第2章 完



*****************************

 2章を書き始めたときは10-20話ぐらいかな?と思っていたのですが思いのほか長くなって35話も書いてしまいました。次から舞台を別の業界にうつしてやっていこうと思います。今後も頑張りますんで、なにとぞよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る