第34話 入院生活
1週間の入院生活は案外悪いものではなかった。日常からのことだが食事は豪華と噂されるGoogle社の社食と同等のクオリティで提供されているらしいし実際うまい。入院中で制限はあるものの飲み物やお菓子のラインナップも充実している。
そして何よりこのGoogleが作った世界にはすべての娯楽がある。
Youtubeは生きていた頃は話題になったものを見る程度だったが、この世界に来てからは完全に入り浸っている。AmazonプライムビデオもNetflixもないこの世界ではworkerたちの主要な娯楽なのだ。正直コンテンツは玉石混交なのだが、根気よく探していると面白いコンテンツに出会えるようになってくる。
最近はサバイバル動画にハマっている。ディスカバリーチャンネルの60日間無人島で1人で探検家が生活するドキュメンタリーがきっかけで、ただのやってみた動画とはわけが違う。服もない状態から始まって、水、寝床、食料、服を確保していく。現実はシビアでうまくいかないことばかりだ。孤独に負けそうになって仲間がほしいと1人嘆くシーンを見せられると仲間と仕事をする生活というのが幸せであることがわかる。それがSpreadsheetの中だとしても。
他にもそれらしいキーワードを習得しながらたくさんの動画を見た。いまなら森のなかで火をおこすことぐらいなら可能な気がしてくる。もっとも普段触れる森は文字列関数で、本物の森を拝む機会はもうないし、衣食住に困ることもおそらくないだろう。
ちなみに悲しいのはCMを見せられるときだ。宣伝されたところ殆どのものはもうおれには届かないものばかりだ。最も悲しいのは生命保険のCMだろう。なにせもう死んでしまっているのだ。
Youtube意外にもGoogle Playがあるのもありがたい。映画や放送中のテレビドラマやアニメも見ることができる。サイトウが映画オタクなのは生前からなのだろうか、それともworkerになってからなのだろうか。workerになってからであってもおかしくはないと思えるほど、豊富に揃っている。
入院中は転スラこと転生したらスライムだった件を見ていた。異世界に転生したと思ったらスライムだった、非常に身につまされる話だ。面白いのだが複雑な気分になる。スライムとSpreadsheet、はたしてどちらが幸せだろうか?少なくともこのスライムとおれに違いがあるとしたらチート能力ってやつだろう。このスライムはもうなにがあっても負けないんじゃないかというぐらい強いが、おれにはチート能力はない。さすまたとか高枝切りバサミを持って戦っているし、実際いま関数を処理しきれなかった結果入院させられている。
動画を見るのに飽きたら例の恐竜のゲームをやっている。クエスト中はいつ呼び出されるか次のシフトはいつかなどを考えてしまうのだが、入院中はそういうこともなく集中して取り組むことができる。無心になって障害物をかわしていると、かなりスコアが出せるようになってきた。スコア5ケタは何度か達して、いまのところ最高スコアは16321点だ。
そうやっておれは、意外にも入院生活をちょっとした長期休暇として満喫することができた。
※今回のYoutube
【60日サバイバル】ザ・無人島生活 | 火おこし (ディスカバリーチャンネル)
https://www.youtube.com/watch?v=8ARSkh4wp2E
【公式】『転生したらスライムだった件』 第1話 「暴風竜ヴェルドラ」
https://www.youtube.com/watch?v=IW3KS1iqlp8
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