第63話 使わないセルは削除しておけ

 おれがCONCATENATEを処理し終えたころ、サイトウとイノウエもIMPORTXMLを処理し終えていた。


「お、おう。おつかれさん。問題なかったろ?」


 サイトウが鼻を覆いながら言う。そう、CONCATENATEは臭かった。ゾンビの血と肉ともつかない残滓がついていて、これはシャワーを浴びても取れるか不安だ。GoogleSpreadsheetsの中の人が臭くて汚い仕事をさせられているなんて誰も思いも寄らないだろう。




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 次のシートはだだっ広くて関数の気配はなかった。


「やけに広いですね」


「タカハシ、おめえシートで使わない行や列は削除する派か?」


「そりゃあ、もちろん」


 Spreadsheetsでは、新規に作成したシートは1-1000行、A-Z列、合計すると26,000セルが用意されている。だがノートパソコンの画面に表示できるのは20-30行、列も10列少々、つまり200-300セル程度でデフォルトで用意されたセルに対して1%程度しか人間は一度に見ることができない。。これがなにを意味するかというと、ほとんどの仕事でやり取りされるシートで使われる行列もその程度の範囲でしか無い。デフォルトで用意されるセルのほとんどは無駄なセルということだ。


 そういう無駄セルがあると予期せぬデータが入っていて関数の演算結果を狂わせたり、うっかり落書きとか文句とかを書き込んだのを忘れていてクライアントに見られてまずいことになったりするかもしれない。なによりファイルが重たくなりそうな気がする。だからExcel職人は使わない行列は削除しておくクセがある。


 ちなみにExcelではファイル作成時にSheet1、Sheet2、Sheet3と3つのシートが用意される。使わないシートを消しておけ、というのは会社にはいると新社会人に教えられるちょっとしたマナーのようなものだが、はっきりいってめんどくさいのでGoogleSpreadsheetsのように一つだけにしてほしいといまは切に思う。


「それがこのクエストとなんの関係があるんですか」


「ちったあ頭つかえや。この広い現場はシートの行数が増やされてるってこった。だとしたらこのシートはなんだ?」


「なるほど、集計される元データのシートってことですね」


 元データのシートとは、他のシートで集計結果を表示する元データを入力もしくは貼り付けしておくシートのことだ。この手のシートはそもそも人が見るためのシートではない。そのため人間の可視範囲を超えた膨大なデータが入力され、業界にも夜がデフォルトの1000行を軽く超えてデータが入力されていくものだ。つまりここがそうという場所だ。


「そういうこった。お?くるぞ」


 なにかを察知したサイトウが振り返ると、A1セルにうっすらと霧のようなものが漂い始める。霧はうずまきながら徐々に一点に集まり濃さを増していく。ゴルフボール大の黒い玉にそれがなった時、強い光が発せられた。目が眩み、視界が真っ白になる。

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