第62話 ゾンビが走るかどうかについての考察
「っくぅぁあ゛ー」
「あ゛…あ゛あ゛う゛…」
CONCATENATEたちが声ともつかない声を上げながらのろのろと近づいてくる。よかった、レトロスタイルゾンビだ。現在、多くの人が思い描くゾンビ像はジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(以下NOTLDと呼ぶ)が原点となっている。NOTLDに登場するゾンビは走らない。超常的な力やウィルスで死体が動かされているという設定なので、生きた人間ほど筋肉を巧みに動かすことはできないし、死後の腐敗や硬直の影響を受ける。結果として走れはしないし、歩く動きも足を引きずったように遅い。これはレトロスタイルゾンビだ。
しかし最近はそうとも言えない。ダニー・ボイルの『28日後...』ではゾンビたちはとにかく走る。疾走感のある音楽とともに生き残った主人公たちとゾンビが走りまくる。トンネルの中を走るゾンビたち、その影が照らされるシーンが目に焼き付いている。もっとも28日後のゾンビは正確にはゾンビではなく、ウィルスに感染した生きた人間であるという話もあるのでこの話は難しい。ゾンビが走ってもよいか、というのはゾンビマニアの間で常に論争の種になっている。
しかし大勢は走るゾンビに傾いていると言っていいだろう。2004年に公開された『ドーン・オブ・ザ・デッド』はNOLTDのロメロ2作目にして出世作『ゾンビ』のリメイクだ。しかしロメロの走らないゾンビへのこだわりも虚しく、冒頭からゾンビたちは全速力で走る。そしてこの映画はむちゃくちゃ面白い。ゾンビ映画のテンプレにおける完成形と言っていいだろう。
ブラッド・ピット主演で話題になった『ワールド・ウォーZ』でもゾンビたちはとにかく走る。坂道を走り、折り重なって斜面を作り、壁を駆け上る。しかし原案となった小説『WORLD WAR Z』を書いたマックス・ブルックスは最初の著書『ゾンビサバイバルガイド』でもゾンビが走れない存在であることを主張しているし、『WORLD WAR Z』でも走るゾンビの描写はない。原案とはいっても世界各国で政治的な事情を加味しながらゾンビへの対処が行われるというエッセンスが取り入れられているだけで、別の作品と言うべきだろう。
ゾンビは走らない、走るはずがないという主張はエンターテイメント性の前に既に屈している。ゾンビもはや走る、疲れないぶん人間よりも早く。だがこの世界ではそうでなくて本当に助かった。CONCATENATEはよろよろと動くだけだ。おれはセオリー通り、一体目のCONCATENATEの眼窩にむかってバールを突き刺し、脳をえぐった。処理はあとまわしだ。おれはシーズンが進んだ『ウォーキング・デッド』の登場人物のように、黙々と農作業のような調子でCONCATENATEの頭を潰していった。
※参考書籍
ゾンビサバイバルガイド(マックス・ブルックス)
https://www.amazon.co.jp/dp/4047289558
WORLD WAR Z〈上〉〈下〉(マックス・ブルックス)
https://www.amazon.co.jp/dp/4167812169/
https://www.amazon.co.jp/dp/4167812177/
ゾンビ映画大事典 (映画秘宝COLLECTION)(伊東 美和)
https://www.amazon.co.jp/dp/4896917111/
ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える(ダニエル ドレズナー)
https://www.amazon.co.jp/dp/4560082499/
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