第29話 大群の襲来

 2回目の休憩。恐竜ゲームでジャンプ中にしゃがむと急降下して着地速度をあげることができるのを発見した。


 スピードが早くなってきたときに着地してすぐ障害物にあたってしまう問題を回避できるだろう。そう思って練習を重ねるのだが、かえって早く着地しすぎてせっかく飛び越えたサボテンを踏んだりしてしまうミスを連発してしまう。他にも大ジャンプと小ジャンプを使い分けも練習した。しかし軽くボタンを押す、というのがどうにも難しい。練習しているとそもそもジャンプ自体に失敗してしまう。


 そうやって小手先にテクニックを練習し続けたが、いっこうに記録を更新できなくなってしまい無為な休憩時間を過ごしかけていたそのとき、イノウエからトランシーバーで連絡が入る


「タカハシさん!大群、大群です!すぐ来てください」


 あわてて部屋に入ると、シートは関数に埋め尽くされていた。REGEXREPLACE、VLOOKUP、それから見たことのないニワトリ型の関数がどのセルにもいて走り回っている。


「あのニワトリ、なんですか?」


「ああ初見でしたか。あれはIFERRORです。まさか構文わかんないとか言いませんよね」


「もちろん大丈夫です」


 IFERRORはこういった貼り付けデータの処理では頻出だ。貼り付けるデータの行数が不定なのでデータがない行でもエラーを出さないように仕込まれる。


=IFERROR(VLOOKUP( ), "")


 といったように書くことで、エラーではなく空白を返すことができる。おれたちworkerにとっては、エラーがでないのはありがたいことではある。一方で不必要に関数がかかれたセルが増えることにもつながる。つまりむちゃくちゃ大変ってことだ。


「とにかくがんばりましょう」


 おれとイノウエはタモ網と高枝切りバサミをそれぞれ持ち、関数を処理しはじめた。




 #########




 もう2時間は経っただろうか。ようやく終わりが見えてきたその時、ひしめいていた関数が急に消えてしまった。


「え?どういうことですか」


「ユーザーさん、消しちゃったみたいですね…」


 関数を実行したセルはほのかに光っているのだが、これまで処理したセルの光も消えてしまっている。


 たしかにそういうことはよくある。一度数式が組み上がったと思ったのだが、何らかの考慮が漏れていて作り直さないといけないことが。よくあるのは絶対参照の$のつけ忘れ、予期しないエラーケースの発見、別に関数を使ったほうがいいと思い直すことなどだ。


 つまりこのあと起きることはわかりきっている。処理したはずの関数たちが復活し、おれたちの2時間は徒労に終わった。


「あの、そろそろ交代の時間なんでサイトウさん呼んで休憩に行っていいですか?」


「もうそんな時間でしたか。わかりました。すいませんがサイトウさんが来るまではよろしくおねがいします」


「わかりました」


 5分ほどしてサイトウがやってきた。そしてあたりを見回していった。


「あー、イノウエ、すまんが休憩はナシだ。。。」


「ええええっーーー!!!」



 ※今回の関数

 IFERROR https://support.google.com/docs/answer/3093304

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