第18話 workerの武器
「あたたたた。うー、あたまいたい。きもちわるい。。。」
おれたちはリアカーをひきながらクエストにむかっていた。追い越し車線を通り過ぎるworkerたちの眼が冷たい。自転車とか歩くとか、そういうマシな手段もあるのだが、おれたちworkerにも仕事道具がある。バット、さすまた、脚立、タモ網。そういう文明的な道具の数々が関数との戦いを支えている。
ほんとうのところもっと異世界ファンタジーっぽく剣とか、SFっぽくレーザー銃とかあればいいと思っているのだが贅沢はいえない。与えられた条件の中で最高の結果を出すのが仕事だ。いつもは10分とかからずクエストに到着するのだが、今日ばかりは1時間ぐらいはかかったんじゃないだろうか。イノウエが時折休憩して水を飲んでいたのも遅くなった原因だ。こんだけ体調悪いなら有給取れよと思ったが、この世界に有給という概念が存在するのかはわからない。
クエストのシートについたときイノウエはギリギリうごけるかどうかというぐらいだったが、おれはやる気に満ち溢れていた。今日はREGEX関数たちとやり合うのだ。
クエストにどのような関数がでるのか、それは究極的にはわからない。だがある程度高い精度で予測は可能のようだ。その予測結果に基づき、事務員たちはおれたちworkerにクエストを割り振っている。なにせ関数は400近くある。すべてを網羅しているworkerがいるのかわからないが、金融や統計、高度な数学など、専門外のworkerが出くわすと対処ができない。workerの能力と適正を見極めつつ、クエストは割り振られている。
そして今日、おれは事務員にREGEX関数がでそうな場所はないかと注文をつけた。事務員は青白い顔をしたイノウエを見て少しだけ眉間にシワを寄せたが、イノウエはREGEX関数に適正があるとみなされているらしい。
「正規表現の勉強をしはじめた理系学生の練習帳のクエストです。ここならそう複雑なものもでないでしょう。くれぐれも無理はしないように。あと道具にこれを加えておいてください」
そう事務員は言って細長いダンボールの箱を2つを差し出し、おれたちをクエストにアサインした。
大丈夫だ。昨晩はひどい夜でもあったが、あんな中でも正規表現についてある程度は学習できた。これはおれにとって新しい実績を積むチャンスなんだ。
扉を開けてクエストを開始する。遅くなったからか、すでにシートの中には5体ほどの例のトリフィドがいた。
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昨晩、REGEX関数の姿についてイノウエから聞いたときは正直あまり要領を得なかったのだが、それは仕方のないことだと悟った。こんなものは説明できない。
たしかに基本的な特徴は植物なのだが、一般的に思い浮かべる木の印象とあまりにも乖離している。葉は申し訳程度でほとんどついていない。幹はまるで仔牛でも飲み込んでいるかのように丸く太っている。そしてその表面はひどくゴツゴツしていてドラゴンの鱗のようだ。2-3メートルのそいつらのてっぺんには人間の頭ぐらいの大きさの壺状の器官があり、そこからイノウエが刺毛といっていたトゲがのぞいている。そして何より異常なのは植物だというのに、3つの図太い根のような器官でずるずると移動をしていることだ。
おれは高枝切りバサミをグッと握りしめた。イノウエは後ろであくびをしている。
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