第19話 #REF!
「あの脚が出ていて動いているのがREGEXREPLACEで、脚が埋まっている方がREGEXEXTRACTです」
イノウエが教えてくれた。
「REGEXMATCHはいないんですか?」
「MATCHはもっと細くて小さいやつで、あれはほとんど危険はないのでFINDとかと変わりません」
「REPLACEとEXTRACTは?」
「あいつらもあっちから攻撃してくることはほとんどないです。とはいえ処理するときに刺されないとも限らないので、先に刺毛の先端を剪定しておくのがセオリーです。そうすれば無力化できます」
なるほど。思っていたより凶暴な相手ではないようだ。おれは高枝切りバサミの柄を伸ばした。
「まず、、、1体やってみせます」
イノウエは二日酔いに頭を抱えながら言い、一体のREGEXEXTRACTに近づいた。その壺状の器官、というか頭からのぞいている刺毛の先のトゲに慎重に狙いを定め、高枝切りバサミのトリガーを引く。
バサリ
あっけなくトゲは床に落ちた。REGEXEXTRACTはというと身体の一部をきられたことにはあまり関心がないらしい。トゲがなくなった刺毛をふらふらさせている。イノウエはそいつに近づき幹に触れて唱えた。
「レゲックスエクストラクト」
REGEXEXTRACTはゆっくりとセルに吸い込まれて消えた。
「そっちのREPLACE、やってみて。あ、脚を踏まないように気をつけて」
おれはイノウエに促されてREGEXREPLACEの一体に近づく。脚があるものの特に動く気配はない。刺毛の先のトゲに狙いを定め、トリガーを引く。
バサリ
あっさりとトゲが落ちた。REGEXREPLACEはとくにかわらずたたずんでいる。おれは近づき、幹に触れて唱える。
「レゲックスリプレイス」
あっけなくそいつはセルに吸い込まれて消えた。
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その後、残りのREGEX関数たちの処理も滞り無く終わった。REGEX関数たちはイノウエの説明通りおとなしく苦労はしなかった。イノウエは水を飲みながら休んでいた。問題なく処理できたということは、おれの正規表現知識でも今回のやつらはどうにかなったということなのだろう。
「ありがとうございました。イノウエさんのおかげでREGEX関数を処理できるようになりました」
これは異世界転生ではなくて仕事だ。先輩をたてるコミュニケーションは軽視できない。
「うむ、くるしゅうない」
イノウエは二日酔いも収まりつつあり、上機嫌そうだ。もう終わりかな、そう思ったとき追加で4体のREGEX関数が出現した。さっきの個体と姿は変わらないが、幹の隙間から赤い光が漏れでている。
イノウエの表情がこわばった。
「やばい、#REF!よ」
「れ、れふ?」
「いいからアタッチメントをつけかえて!!!」
おれたちは高枝切りバサミのアタッチメントをハサミからナタに切り替えた。
REGEX関数のうち2体はREPLACE。さっきはほとんど動かなかったが、今度は明確にこちらにむかってずるずると移動し、刺毛を活発にくねらせている。
「まずはEXTRACTからREPLACEを引き離します。ついてきて、EXTRACTの射程に入らないように気をつけて」
イノウエとおれはおちついて距離を取りながらA20セルまで歩いていった。関数の出現位置はC1からC4、十分な距離をとった。REPLACEはこちらにむかって歩いてくるがそのスピードは遅くついてこれてはいない。
「説明します。あれは#REF!、エラーです」
「エラー?構文ミスですか?」
「そのケースも多いけど、おそらくあれは処理できない正規表現が含まれているんだと思います。REGEX関数は便利だけど、正規表現のすべてがカバーされているわけではないの」
「そうなんですか」
「具体的にはあとで教えます。問題はあれは処理できないことと攻撃してくるってこと」
「え?それじゃあどうしたら」
「刺毛を切っておとなしくさせます。あとは放って置くしかないです」
「わかりました」
「1体ずつ相手しましょう。タカハシさん、申し訳ないのですが1体をH列ぐらいまで連れていって、そのあとこっちに戻ってきてもらえませんか。引き離して1体ずつ処理しましょう」
なるほど、作戦は良さそうだ。
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REGEX関数便利便利といった手前なんですが、使える表現が限られていて痒いところに手が届かないのもまた事実なのです。
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