第17話 せーきひょーげん

「スプリット?にゃんだっけそれ。そんなこといーからさ!せーきひょーげん勉強しよ?ね?」


 だめだ。明らかにこいつ飲みすぎだ。SPLITのことはもう諦めた。今度サイトウに聞こう。正規表現を教えてくれと言ってからいつのまにかおかしなことになってしまった。


「いーですかー、REGEX関数を処理するには構文だけじゃなくてについてりかいしておく必要があるんですよー」


 もう10回は聞いた。ここまで酔っ払う前にも言っていたのでおそらく事実なのだろう。だとするとまずい。正規表現についてはかじった程度、リファレンスを見ながらでないと基本的なこともおぼつかない。処理に失敗した関数がどうなるかはSUMIFSのときの経験から想像がつく。いくらイノウエが正規表現に強いと言っても、暴走したやつをしとめるのはサイトウなしでは困難だろう。そういえばREGEX関数、どんな姿をしてるんだ?木だったら暴れようはないのでは。


「REGEX関数ってどんな姿してるんですか?」


「とりふぃどです」


「鳥…ふぃ、なんですか?鳥ですか?RIGHTみたいな感じ?」


、ですよ。Triffids。知らないんですか?きょうようがないなー」


「結局どんな形なんです?」


「木ですよ、木。植物の」


「よかった。それならおちついて処理に集中できますね」


「歩くし、刺してくるけどねー」


 は?


「ほんとに知らないんですか?あんなめーさくを?3つのでずるずるあるいて、刺毛しもうで刺してくるんですよー、こわいでしょ?」


 グビグビとハイボールを飲みながらイノウエはわけのわからないことをいい続けている。もう10杯は飲んでるはずだ。


「しもう?あし?植物ですよね?なに言ってるか全然わかんないんですけど、3つのREGEX関数ぜんぶがそうなんですか?」


 イノウエが手元のハイボールを一気に飲んで言う。


「わーかーになってあれをはじめて見たときすぅ*お{5}ごく(感動|感激)したんですよ!!!あれをはじめて読んだのは2[1-4]歳のときだったかなぁ。危険とはいえ(単純|バカ)に見えたトリフィドの(協調性|集団意識)に気づいていくときの(ぞく){2}する感じ。わかんないかなー。(バカじゃないの)?」


 まずい、まずいぞ。こいつ、正規表現で発話しはじめた。


「あれ+え{3}?タカハシさんよく見たらいいオトコじゃんー。(彼女|奥さん|彼氏|パートナー)とかいるんですかぁ?ワタシ酔っちゃったなぁあ」


 やばい。いよいよやばいぞ。


「ねえワタシのことどうおもいますか?*サイトウさんとワタシ、(ぶっちゃけ|正直)どっちが好みなのか教えてくださいよ!{5, 10}そりゃあ上司×部下も悪くないですけど、+ワタシだってたまにはそういうのもいいかなって。実際どうなんですか?ワタシと(セックス)?したくありませんか?」


 イノウエが隣に来てしなだれかかってくる。油断するなタカハシ。これはラッキーではない。思い出すんだ、サイトウがどうなったのか。酔った女性の誘いに乗ってはだめだ。(落ち着け。){3}ここで謹慎を食らうわけにはいけない。おれはGoogleSpreadsheetsのworker、仕事は関数の処理なんだ。(おれは暴走するイノウエをなだめ、隙をみて部屋に帰った)?





 *******************

『トリフィド時代』(ジョン・ウィンダム著)より

(すいません)+(もうしません)?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る