第5話 蠢く関数たち
「ひやああああ、さわらないでええええええ!!!!」
ヘルプで呼ばれた部屋、というかシートはおそろしくも少しだけエロい状態だった。大量の手の形をした関数が人差し指と中指を足にして動き回っている。完全にハンドだ。そしてハンドたちはExcelタイツを着たメガネの女性を取り囲んでいる。
「な、なんですかアレは?」
「紹介しよう。我が家の執事、ハンドだ」
「あれって執事なんでしたっけ?いや、そんなことより早く助けないと…」
「え?違うの?執事じゃねえの?アダムス家の子供の世話とかいろいろやってなかったっけ」
「ぼくも正確にはわかんないけど、執事はフランケンシュタインみたいなやつじゃなかったでしたっけ?ところで助けないと…」
「あ、そっか。よく見てんなお前、わけえのに偉いよ」
サイトウは結構余裕そうだ。
「はやくたすけてぇええええええええええ!!!!!」
「イノウエ、うるせえよ。VLOOKUPぐらいで死にはしねえだろ、ちょっと黙ってろ」
え、あれVLOOKUPなの?まじで?キモすぎる。
「タカハシ、お前どっち派だ?」
「例の神学論争の話ですか?VLOOKUPですけど」
「好都合じゃねえか。そうだな、おめえはいったんイノウエ助けてこい。邪魔なVLOOKUPは実行しとけ。おれはちょっと道具とってくるから」
そういうとサイトウは車に戻っていった。
初日から厳しいことになった。さっきの研修現場で見た感じ、関数ってオブジェみたいなもんだと思ってたけど、あれは完全にモンスターだ。動いてるし、襲いかかってるし。そんなところに1人で放置されるとは。
「まあいけるっしょ、VLOOKUPなんて慣れたもんだし!」
おれは自分に言い聞かせるようにそう言っておそるおそるイノウエに近づいていった。VLOOKUPたちはどことなく威嚇するような動きをしつつ、おれが近づくとじりじりと後退して道を開ける。イノウエの前までくると、1匹が手首で立ち上がり、体というか指を広げて立ちはだかってどこうとしない。キモい、かなり。これに触れないといけないのか。
「く、くそ…、もうしらん!ブ、ブイルックアップ!」
立ちはだかるVLOOKUPの人差し指を握って唱えると、立ちはだかっていたVLOOKUPは元いたのであろうセルまで飛んでいった。無事実行できたようだ。イノウエの周りのVLOOKUPたちは恐れを感じたのかたじろいだ。いける。いけるぞ。
イノウエを見ると、足元と太ももにVLOOKUPがとりついていた。イノウエはたぶん恥辱で泣いていた。おれはなんだか緊張してしまって取引先と話すような感じで言った。
「すいません、タカハシと申します。初対面で失礼いたしますが、VLOOKUP取らせていただきます」
「ひゃ、はい。よ、よろしくおねがいします」
「ブイルックアップ」
足元のVLOOKUPの手首をつかんで実行した。そいつもどこかへ飛んでいった。よし、いける。次に太ももを、いや太ももにとりついているVLOOKUPを見る。気まずい。初対面の女性のパーソナルスペースに踏み込んでいる。そういうのは得意じゃないんだ。イノウエ、メガネで仕事の出来そうな顔をしている。泣いているが美人だ。おれよりちょっと若いぐらいだろうか。胸は、いやイノウエの体のことはいい。VLOOKUPだ。
「ではもう1匹失礼いたします」
「は、はい...」
なんでこいつ顔を赤らめてるんだ?照れるからやめてくれ。これってあとでセクハラとかで訴えられたりしないよな?だいたいだれに訴えるんだ?Googleか?こんな世界に転生させておいてセクハラでクビってことはないとおもうがどうなんだろう。それともサイトウか?というかサイトウまだかな?
そう思ってふりかえると、無表情に金属バットを振りかぶっているサイトウがすぐ後ろにいた。
※今回の関数
VLOOKUP https://support.google.com/docs/answer/3093318
*********************************
この小説はSpreadsheets/Excel Advent Calendar 2018のために書かれはじめましたが、Advent Calendarの中で終われる感じではなくなってきたのでぼくの担当日じゃなくても書くようになっています。
https://adventar.org/calendars/3080
が、残念なことに本日は担当が決まっていなくて僕が書くことになったのでこの話は11日目のアドベントカレンダー記事となります。
昨日はikatakeさんの「VBAで自作関数の引数にセルの値を指定するときに良い感じにしたい。」でした。この小説にはVBAの話は出てこないのですが、GASはそのうちかくと思います。
http://ikatake.hateblo.jp/entry/vba_20181210
明日はser1zwさんで、Excelアドインについて何か書きます、とのことです。
この小説の続きは2,3日のうちには公開すると思いますが、アドベントカレンダーとは関係なく進行する可能性も高いのでカクヨムでフォローしていただけると幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます