第53話 FILTER関数と組み合わせ

 翌日、イノウエは精神的ダメージから復帰できず、おれとサイトウの2人でクエストにやってきた。



 シートに入ると異様なものが目に入る。銀色のガイコツに浮かぶ赤い目、完全な人型ながらも内部の骨格機関むき出しのメタリックボディ。こいつがFILTERらしい。明らかに危険そうな見た目をしているが、最近はQUERYやARRAYFORMULAとやりあったので恐怖を感じなくなってしまった。そしてなによりもこのFILTER、木に半分埋まって身動きが取れていないでいる。


「T-800だ」


「恐れ入りました。型番までは知りませんでした」


 いつものごとくサイトウは映画豆知識を披露して満足げだ。おだてたうえで聞く。


「あの木はなんなんですか」


「あれな、REGEXMATCHだ。よくFILTERとセットででてくる」


 サイトウは壁に説明を書く。


=FILTER(範囲, REGEXMATCH(条件範囲)=TRUE)


「FILTERの条件にREGEXMATCHを使えば、正規表現で一致する範囲の抽出が直感的にできるわけよ」


「たしかに相性がいいですね。その割にはFILTER、身動きとれなそうですが」


「ああいう合成の仕方ははじめて見たな。不幸な事故だ。処理してやろう」


 おれたちは関数に近づき、それぞれ処理した。


「フィルター」「レゲックスマッチ」


 身動きの取れないFILTERがセルに沈み込んでいく様子は、溶鉱炉に沈むシーンを彷彿とさせた。


「いまのはラッキーだったが、まだ来るぞ。気をつけろ」


 サイトウが言ったそばからシートに異変が起きる。C1あたりのセルを中心に稲妻がジリジリと音を立てながら激しく渦巻く。黒い球体が虚空からあらわれて広がる。強い光が発せられて思わず目を閉じる。


 目を開けるとチリチリとうすれていく稲妻の中で男がしゃがみこんでいた。ゆっくりと顔をあげて立ち上がったそいつは完全にカリフォルニアの州知事をやっていた大物俳優そのものだった。ただし映画と違って服を着ていたので、おれは自尊心を傷つけられずに済んだ。


 おれは念の為に聞いた。


「あれ、関数ですよね?」


「UNIQUEがFILTERに組み合わせられるとああなる。構えろ!」


 大物俳優がおれたちの方の正面に向き直る。


「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー」


 え?この関数、喋るの!?

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