第47話 試行錯誤とエラー

「いまのは楽勝だったな」


「そうですね、QUERYがいるクエストに来たのは久々でしたけど、うまく処理できてよかったです。エラーも出ていなかったし、肩慣らしにちょうどでしたね」


 サイトウとイノウエの会話に戦慄した。


 エラーといえばこの世界ではおそろしい要素だ。処理はできないし、通常は無害な関数が凶暴化して襲いかかってきたりする。エラーでなくともQUERYはおれたちに襲いかかってきてたのだから、あれが更に凶暴化するということだろう。大丈夫なのか?


「ああ、そうだな。そうだタカハシもおぼえとけ。エラーのやつ、結構おおいから見たらとりあえず逃げろ」


「どうやって見分けるんですか?」


「そうだな、攻撃してくる。見たらわかる」


「え?さっきのやつも攻撃してきてたんじゃ・・・?それに無力化しないと通常の関数の処理の邪魔になりませんか?」


 エラーの関数は処理できない。しかし放置すると処理しなくてはいけない正常な関数を処理する邪魔になってしまう。だから無力化しておくのがセオリーだ。少なくともREGEX関数の際はそうした。


「これはあくまで経験則なんだが、ユーザーさんがエラーのQUERY関数が長く放置することはすくねえ。なあ、イノウエ」


「はい、そうですね。そもそもQUERY関数はひとつで多くの情報を出力できる関数です。1000行に関数コピペしてエラーは放置みたいな使われ方はあんまりないんです。それにエンジニアは例外を放置するのが嫌いなタイプの人がおおいですからね」


 なるほど、そういうことか。


「エラーが出るとしても正解にたどり着くまでの試行錯誤の過程なので、ほとんどの場合はしばらくやり過ごせば消えてくれます。ただ、正しく関数が書かれるまではエラーが繰り返されるケースも多いんです。QUERYで使えるGoogle Visualization API のクエリ言語はよく使われるSQLに比べて機能は制限されているので、使えない書き方をしてしまうケースは多いんです」


「それが土地勘ってやつですね」


 イノウエは元SEなのでユーザーがどのように関数を使ってくるか、そのクセが見えている。そのクセはおれには見えていない。


「おい、次きやがったたぞ、このユーザーまだ試行錯誤中だな」


 エラーでなくとも試行錯誤はなされる。関数を組み合わせで使う場合は一部を書いて、結果を確認してから次を書く、ということがよくある。


 さっき処理したセルの光が一度消え、ズゥウン、と大きな音とともにQUERY関数が出現した。しかも1セルから2体。


「結合だな」


「え?なんですかそれ」


「おい、イノウエ教えてねえのか」


「あ…、うっかりしてました」


 1体のQUERYがすべての足を地面におろし、やや上向きに構える。


「エラーだ。避けろ!!!」


 サイトウが叫ぶ。QUERYの胴体から赤い光線が床に発射され、光線は角度を変えながらおれの足元に向かってくる。光線の触れた空気の発するジリリという音、ほのかな熱でやばさがわかる。アレに触れたら死ぬ。ゆっくりと向かってきていたが、角度がついてくると一気に近づく速度が増す。


「タカハシ!!!かわせ!!!」


 サイトウの警告、おれは慌てて身体をひねる。


 ジッ。カラン、カラカラ。


 チェーンソーの刃の先端が焼き切れ、落ちた。これは本格的にやばい。3匹のQUERYがドスドスとこちらにむかって走り出す。


「散れぇえええええ!!!!」


 おれとイノウエは全力で後ろに駆け出す。壊れたチェーンソーは捨てた。



 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ。


 1体はおれの方を真っ直ぐに追ってくる。


 ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!


 強く踏みしめる音で足音が止まる。ふり返ると先程のビームをだす体制に入っている。おれはあわてて走る向きを変えビームの弾道から離れるように走り続ける。避けられるか!?


 振り返るとQUERYに飛び乗る影。サイトウだ。飛び乗ると同時にQUERYの胴体にチェーンソーを突き刺す。重要な回路をやられたのか、QUERYはガクガクとその場で無軌道に震え動いている。サイトウの後ろには別の1体がついてきており、ビームを撃つ体制に入る。


 サイトウは躊躇ちゅうちょなくチェーンソーを刺したまま手放し、カバンに手を突っ込み、取り出したなにかをビームを撃つQUERYにむかって放り投げる。


 ヅォオオオオオオン!!


 QUERYの目の前で手榴弾が爆発した。





 *******************

 ヘビィな読者のために警告しておくとこのお話はフィクションです。あなたがGoogleSpreadsheetsでエラーを出したり、強制終了させたりしても、その裏側でタカハシのようなworkerが苦しむことはありません。

 この警告はなによりも最近仕事中にSpreadsheetsに「あ、ごめん」って思うようになったぼくに対して発しています。

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