第46話 機械化関数QUERY

「SQLはおぼえたんだろうな?」


「ええ…、まあ一応は」


 翌朝のクエストへの道中は気まずいものだった。おれの認識が甘かったということもあるが、「死にますよ?」だ。おれたちworkerは仕事仲間だ。クエストは暴力と危険にまみれているが、そうはいってももともと穏やかな会社員の集まりだ。そんな突き放した言葉を投げられるとはよほど怒らせてしまったのだろう



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 クエストの現場につくとそいつはいた。丸い金属の胴体についたたくさんの赤い目。後方からは金属のアームが何本も生えてその車ほどの重さのありそうな体を支えている。おれたちに気づいたそいつはその10の目をこちらに向ける。


ズダンッ。


 おれたちを脅すかのように一本の足を床に叩きつけた。おれは「死にますよ?」が文字通りの意味でしかないことを悟った。


「あんなのどうやって処理するんですか」


「心を解き放て」


「え?」


「心を解き放て」


 たぶん映画のネタだろうがなんだったか思い出せない。


「すいません、何の映画ですか」


「マトリックスだよ」


 なるほど。思い出した。そう言われてみればあのQUERY関数、マトリックスで船を壊しに来るやつだ。待てよ?マトリックスってことはもしかして…。


「それって、おれたちの肉体は物理法則にとらわれないってことですか?」


 それならサイトウのあの異常な身体能力にも納得がいく。なぜもっと気が付かなかったんだ。


「は?なに言ってやがる。映画とは違うんだよ。せっかくおめえがはじめてQUERYを見たんだ。今言わないでいつ言うんだ」


 期待したおれがバカだった。サイトウはチェーンソーにエンジンをかけた。




「いくぞ。やつの足を全部切り落とせ」


 おれとイノウエもそれぞれチェーンソーのエンジンをかけた。QUERYがこちらと呼応するようにズダズダズダとこちらにむけて動きはじめた。



ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ。


どすり。


 サイトウがまず一本、QUERYの足を切り落とした。QUERYに痛みはなさそうだが、危険をおぼえたのかサイトウから距離をとる。


「イノウエ、そっちに行くぞ」


「はいっ!」


 ドタドタとイノウエにむかって向きを変え、一本の足を大きく後ろに反らせる。一瞬の間を置いた後、その足でイノウエをすばやく突く。


ギャギャギャギャギャ…ギッ。


 攻撃してきたイノウエはチェーンソーで受け止め、その足に切れ込みを入れた。QUERYは足を引っ込めたが、ちぎれかけて不安定になった足は不要と判断したのか、残りの足の2本で力任せにその足を引きちぎって乱暴に投げ捨てた。


「うらぁあああああああ!!!」


ギリギリギリギリギリギリギギギギギギ。プスプスプスプスプス。


 サイトウがQUERYの足の付根に潜り込み、その足が生えてくる根元にチェーンソーを先端から突き刺す。一気に複数の足が機能を失いぐったりと横たわる。


ズドンッ。


 支えていた足を失ったQUERYがバランスを崩して転がる。


「タカハシ!イノウエ!残りも切り落とせ!!」


「はいっ!」「わかりました!」


 おれとイノウエはまだ動きのあるQUERYの足をチェーンソーで切り落とす。恐ろしかったQUERYはごろりと逆さに転がる鉄の塊と化した。


「おめえら、よくやったな。いい動きだった」


 サイトウはおれたちをねぎらってからQUERYに手をあてた。


「とどめだ。クエリー」


 巨大なQUERY関数と切り離された足の残骸がセルに沈み込み、当たり一面のセルがうすぼんやりと輝いた。

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