第57話 たまには平和なクエストを
「心配すんな、大人しくていいやつらだよ」
クエストにむかう車中でD関数について尋ねたおれにサイトウは答えた。なにせ最近の関数との戦闘ときたら常に死と隣り合わせといっていい。workerになるまでは、いやworkerになってですらもこのところのような日々は想像もしていなかった。
「D関数でしょ?心配しなくて大丈夫ですよ」
復帰したイノウエも気楽そうだ。この楽観がフラグとしか思えないのは考えすぎだろうか。
サイトウとイノウエの言葉を素直に受け取っていいのかは悩ましかったが、到着したシートにいたのはたしかにおとなしい関数だった。見た目には少なからずぎょっとさせられたが…。
細く伸びた首についた横長の頭、幼児体型と言っていいのか小さくズングリしたからだ。例のスピルバーグ映画の宇宙人そのものだ。
「ディーサム」
イノウエがDSUMが差し出した人差し指に自分の人差し指をあわせて唱えた。DSUMは輝きながら消えゆき、セルが輝きを放った。
「痛っ、うわっなんだこいつ」
突然腰のあたりを小突かれたと思ったらムシがいた。ムシ、といってもメン・イン・ブラックの給湯室にいた細くて胴長な宇宙人のやつだ。
「DCOUNTだ。悪気はねえ、ただのスキンシップだ。処理してやれよ」
サイトウに促されて見ると、ムシは口角をあげてグータッチを待っていた。
「ディーカウント」
おそるおそる拳をあわせて唱えると、ムシは輝きながら半透明になり消えていった。
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その後も何匹かのD関数が現れた。どれも宇宙人らしい見た目をしていたが、事前の評判通りいたって大人しく、物騒な武器を持ち出さずとも平和的に処理することができた。
「いやあ平和ですね。いつもこんなクエストだったらいいのに」
誰にともなく呑気なことを語りかけた時、視界の端の空間が少し歪んだような気がした。
「ん?なんだろう」
首を傾げながら近づいてみる。
「タカハシィイイイ!!!戻れぇえええええ!!!!!」
後ろからサイトウの大声。驚いて振り返る。突然、胸元に強い衝撃。身体がよろけ、視界が霞む。赤い液体が自分の腹から足へと垂れていくのが見えた。これは…、おれの血?力が抜けていく。立っていられない。おれの意識はそこで途絶えた。
※今回の関数
DCOUNT https://support.google.com/docs/answer/3094222
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