第58話 見えない敵
見えない敵に斬りつけられたタカハシがどくどくと血を流しながら倒れた。
「イノウエ!タカハシに応急処置して連れかえれ!ここはオレがやる」
「はいっ!」
血まみれで倒れているタカハシを引きずり、イノウエに預ける。カバンからサバイバルナイフを取り出して構え、タカハシを背負ったイノウエの周囲を守る。
「では、あとはおねがいします」
「まかせとけ!そっちも頼んだぞ」
イノウエは無事シートを出た。さて、あとはDPRODUCTを殺すだけだ。
DPRODUCT、こいつがでてくるなんて思っても見なかった。PRODUCTとは積、つまり掛け算の意味だ。DSUMであれば条件に該当する値をすべて足し上げるように、DPRODUCTは該当する値をすべて掛けあわせる。日常生活やよくある職場でこれを使うシーンはほとんどない。PRODUCTを冠する関数はいくつもあるが、どれも使用される頻度は低い。たかをくくっていた。しかし出会ってしまった以上、処理し無くてはならない。
壁を背にして目を凝らし、空間の歪みが出る瞬間を探す。いくら姿を消せると言ったって完璧じゃあない。
「そこかっ!」
わずかな空間の乱れが右から左に動くのをみつけ、カラーボールを投げつける。べちゃりと床に濃い青色がこびりつく。直撃する必要はない、すこしでも付着すれば十分だ。目を凝らすと僅かな青いシミが移動するのが見える。当たりだ。シミを目で追って距離を詰める。
「隠れてるつもりか?」
DPRODUCTは無駄を悟ったのか姿を現す。鈍い色をした金属のマスクと鎧。ガスコードのようなドレッドヘア、篭手には長い鉤爪がついている。ゆっくりと、楽しませろと言わんばかりに歩み寄ってくるDPRODUCT。
「楽しませてやるよ」
サバイバルナイフで正面から斬りつける。鉤爪で受け止め、そんなもんかと言いたげなDPRODUCT。サイトウはピンを抜いた手榴弾を足元に落とす。
ゴトリという音に下を向くDPRODUCT、その隙をついて腹に蹴りをいれ、サイトウは後ろに走り、爆発のタイミングとあわせてジャンプ。
「やったか…?」
爆煙の中からDPRODUCTが焦げたマスクを外しながら現れる。
「そんな簡単じゃねえよな」
4本の歯をコツコツと鳴らし、腰を落とす。
「ぅゔあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーぅ」
DPRODUCTが手を広げて叫ぶ。
チュドゥン。
サイトウが爆発の隙に組み立てた銃でDPRODUCTを撃ち抜いた。
「アグリーマザファッカー」
サイトウはぼそりとそう言って、動かなくなったDPRODUCTに近づき、醜い顔に手をかざして処理した。
「さて、どうやって帰ろうかな」
DPRODUCTが消えてサイトウが一息ついていると、長く伸びた後頭部と尻尾を持つ関数が現れた。
「キシャアアアアアアアアアア!!」
関数が開いた口の中では、小さな目のない頭が口をカプカプとやっていた。
「やれやれ、このユーザーさんはいったいなにを作ってるっていうんだ」
サイトウはだるそうに銃を構えた。
※今回の関数
DPRODUCT https://support.google.com/docs/answer/3094230
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