第66話 悪魔のような部長

 振り下ろしたバットは山下の頭を潰す直前に音もなく止められた。みると山下のネクタイがバットに巻き付き受け止めていた。おれはバットを振り戻そうとするが上下左右ピクリとも動かせない。


「えっ、えっ、なに?」


 山下部長は倒れた姿勢からすーっとビデオを巻き戻したように不可思議に立ち上がり、ニヤけた顔をおれに向けた。途端、バットがネクタイにひかれ強い力で奪われる。部長のネクタイはしなやかな動きでバットを放り投げた。


 錯覚かと思っていたが、ネクタイは明らかに元々の長さを超えている。丸腰になってひるむおれに伸び続ける部長のネクタイが巻き付き、軽々と持ち上げる。


「タカハシさん!逃げて!!」


 滑り込んできたイノウエが高枝切りバサミでネクタイの根本をスパンと切った。どさりと地面に落とされたおれは巻き付いたネクタイをほどきながらいったん後ろに引く。


「山下部長?でしたっけ。おっさん×若者は好きですが、その腹はいただけませんね!ダイエットして出直してください。てぇえい!!」


 イノウエの正確な高枝切りバサミの一撃が山下の右腕を切り落とす。


「ははははは。磨きあげた私の高枝切りバサミは鉄棒だってスパリと一撃なのです。いまなら予備のハサミとノコギリアタッチメントもおまけしてお値段は据え置き9,800円!いますぐこちらのフリーダイヤルにお電話くださいっ!!やあ!!」


 にたにたとした表情の山下部長の首はあっけなくイノウエのハサミによって切り落とされた。ゴトリと転がった首はまだニタニタとした表情を維持している。


「さて!片付きましたね。タカハシさん、処理やってみますか?」


 そう誇らしげに言うイノウエの後ろになにか黒いものが見えたような気がした。

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