第69話 この世界とGoogleの真実

「Googleはなんの会社だとおもいますか?」


 開発者と呼ばれたその初老の白人は流暢な日本語でおれに面接のような質問をなげかける。おれもIT業界の端くれを生きてきた身だ。この質問の答えは知っている。


「『検索』ではなくて『AI』の会社ですよね」


「そのとおりです。よくご存知で」


 まだGoogleが検索サービスぐらいしか提供していなかった頃。創業者ラリー・ペイジがなぜ検索サービスを作っているかと問われ、検索ではなくAIを作っていると答えたそうだ。


「…しかし、それは外向きの答えです。じつのところの会社なんですよ」


「…は?」


「今更驚くことでもないでしょう。現にあなたみたいな死者の魂でGoogleSpreadsheetsは動かされているじゃないですか。他のサービスが違うとでも?」


 開発者は語った。


 Google検索が死んだ図書館司書の魂で動いていることを。


 Gmailが死んだ郵便配達人の魂で動いていることを。


 GoogleMapが死んだ測量士の魂で動いていることを。


 Youtubeが死んだ映写技師の魂で動いていることを。


 Google Homeが死んだ秘書の魂で動いていることを。


 すべてのGoogleのサービスが死んだ者の魂で動いていることを。




「AIを作っているというのは嘘ではありませんよ。ラリーもセルゲイも卓越したコンピューター科学者で、AIによって世界を変えようとしています。ただし、彼らの求める変化を起こすためにはそれをイチから作っていては遅いのです」


 開発者は赤ワインを一口含んでさらに続ける。


「決して表には出てきませんが、Googleの創業にはラリーとセルゲイ以外にもうひとり、1人のネイティブアメリカン出身のスタンフォード大学の青年が関わっています。彼は高名なシャーマンの血を引いていましてね、ラリーとセルゲイと協力し、死者の魂をコンピューターと繋ぐシステムを作り上げたのです」


「そんな…、そんなことが許されるんですか。GoogleSpreadsheetsぼくたちだけならまだしも…」


GoogleSpreadsheetsわたしたちだけなら…?」


 開発者は少しだけ眉を吊り上げ、ワインをあおった。


「タカハシさん、あなたは自覚が足りないようだ。GoogleSpreadsheetsわたしたちがGoogleDriveの部品のひとつだと思っているのですか?ExcelがMicrosoftOfficeのアプリケーションのひとつでしかないとでも思っているのですか?たしかに見た目上はそうかもしれない。しかしその価値はどうか。私に言わせればね、Word文書PowerPointプレゼンテーションなんて、表計算のオマケに過ぎないのだよ。キミはLotus 1-2-3を知っているか?VisiCalcを知っているか?」


 開発者の言葉がワインを飲みながら熱を帯びていく。問いかけておいておれの答えを待つ気はさらさらない。


「表計算ソフトの歴史はパソコン市場の覇権をこれまでずっと左右してきた。VisiCalcは初期のMacのキラーアプリケーションとしてその普及を支えたし、IBM PCを勝たせたのはLotus 1-2-3だよ。表計算のないパソコンなんてものはまるで役立たずのゴミ箱だ。いまでこそ様々なアプリケーションがあるが、まだ表計算がパソコンには、世界には必要なんだよ。表計算が世界中のビジネスや研究にどれだけの価値をもたらしたか、キミには想像がつくか?表計算のない世界がキミには想像できるか?だからGoogleはGoogleSpreadsheetsわたしたちを作ったんだよ。すべてのパソコンに、いやすべての仕事にGoogleを無くてはならない存在にするために!」


「あ、あなたは…、いったい…」


「わたしは…Multiplan、Excelの前身になったソフトウェアの名もない開発者。Googleによってはじめに召喚され、この世界をつくりました」


 ダンッ!






 おれたちが座っている机に生ビールのジョッキ(大)が叩きつけられる。


「じーさん、いつもいつも話がなげえんだよ」


 サイトウが割って入ってきた。そう、ここはいつもの詰め所だ。


「御託はもっともなんだが、要はおれたちはAIがすべての表計算を動かせるようになるまで、いや表計算なんてものを人間が動かす必要がなくなるその時までな、あくせく働くしかねえんだよ」


「そうなったら、僕らはどうなるんですか?」


「んなこと知らねえよ。だが結構なことじゃねえか、おれたちみたいに死んだ人間が生きてるやつらの役に立てるんだ」


「さーすがサイトウさん!いいこと言うね!{5, 10}元ヤクザとは思えない!+(あ、言っちゃった)?」


 ハイボールのジョッキを持ったイノウエが入ってきた。相当酔っているのか、また正規表現で喋ってやがる。


「ばっかやろう!誰がヤクザだ。建設会社だっつってんだろうが!」


 粗暴なおっさんだが、つくづくサイトウはいいことを言う。まったくそのとおりだ。


「ははっ。そっすね、ぼくら社畜ですからね」


 そう言っておれは手元のビールを掲げ、サイトウ、イノウエ、そして開発者とジョッキを合わせた。





 <転生したらSpreadsheetsだった件 完>





完結から1年ほど立ちましたが、技術書の出版社、技術評論社さんからITラノベとして2020/6/22に発売されることになりました!書籍版は大幅改稿していて、エンディングも違うわキャラは増えるわの、WEB版よりもブラッシュアップされて一味違った小説になっています。技術書でもあるので技術解説コラムもつけています。よろしければamazonや書店でご購入いただけると幸いです。

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転生したらSpreadsheetだった件 ミネムラコーヒー @minemuracoffee

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