第55話 FILTER関数は基本統計量も条件付きで出せて便利便利
FILTERとの戦いは意外にもあっさりと終わった。
サイトウが姿勢を低くしタックル。引き剥がそうともちあげるFILTERに構わずそのまま処理した。FILTERはサイトウから手を離し、セルに沈んでいった。
「まぁこんな感じだな。処理すりゃいいんだよ、処理すりゃな」
サイトウが何事もなかったかのように言った。おれは緊張がとけて床に座りこむ。
「これで終わりだといいんですが…」
おれの楽観を尻目にあたり一面に稲妻が走り、10体ほどのFILTERが出現した。整然と一列に並んでいるが、それぞれが様々な形をした武器を手にしている。鈎型の棒や六角の鈍器、チェーンソーのように巨大な刃が回転している大きな盾、SFに出てきそうなレールガン、プスプスと火を噴いている火炎放射器。明らかにこれまでのどんなクエストよりもやばい状況だ。おれはゴクリと唾を飲んだ。
「に、逃げますか?」
おれたちworkerにも限界というものがあるのだ。
「バカいってんじゃねえよ。ユーザーさん舐めてんのか」
「そう言われましても…」
「いいから下がってろ」
サイトウはおもむろにカバンを漁って筒状のものを取り出し、組み立てる。
「っしゃこいやっ!!!!」
サイトウはガチャリと銃を前に構えた。え?銃?
FILTERたちがサイトウに向かって一斉に走り始める。
ズゥオオン。
FILTERの1体がレールガンから光の塊を打ち出す。サイトウはくるりと前転してかわし、体制を整えてそのまま打ち返す。
ヅゥォオウン。
サイトウの古典的な形をした銃から予想外に大きな光の渦が打ち出され、レールガンを持ったFILTERに命中。吹き飛んでそのまま動きを止めた。続けざまにサイトウは飛び道具を持っていた2体を正確に撃ち抜く。
「っぐぁああああああああああ!!!!!」
サイトウが銃をかかげて意味不明な雄叫びを上げる。
ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ。
金属が擦れる足音をたてながら鈍器を持ったFILTERたちが駆け寄る。サイトウが銃を乱れ打ち、FILTERが次々と吹き飛ばされるが、くぐり抜けた1体の棍棒がサイトウに降りかかる。
ッドン!!
棍棒が振り下ろされるよりも早く、サイトウが至近距離でそいつを撃ち抜く。FILTERは吹き飛ぶが、サイトウの銃の先端が棍棒にかすって潰れた。
ヴォオオオオオン。
最後に1体残ったFILTERが唸るチェーンソーを高々と振り上げて襲ってくる。サイトウは銃を捨て丸腰で突撃する。
「キシャアアアアアア!!!」
振り下ろされるチェーンソーよりも、サイトウが懐に潜り込むほうが早かった。サイトウは雄叫びをあげて大きく開いたFILTERの口になにかを押し込み。そのまま全力で駆けてFILTERから離れる。
ッドォオオオオオオオオン!!!!!
FILTERの肩から上が消し飛んだ。爆風を受けたサイトウも吹き飛ばされて受け身を取っている。押し込んだのは手榴弾のようだった。
激しい戦闘のあとにはピクピクと動くFILTERたちと散らばるその破片、焦げ臭いニオイと煙だけが残った。
「おい!残骸を処理するぞ。手伝え」
サイトウがパンパンと手を払いながら叫んだ。おれはサイトウのもとに駆け寄った。
「どれがなんの関数だかもわかんねえだろうが、おめえはとりあえずFILTERを処理しろ」
おれは散らばったFILTERの残骸を一つ一つ処理して歩いた。サイトウはFILTERが使っていた武器を処理していたが、どうやらそれぞれ別の関数らしかった。
ひとしきり処理を終えると照明が落ち、クエストは終了した。
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「ユーザーさんは条件付きの基本統計量をだしたかったんだろうよ」
帰りの車中でサイトウはおれの疑問に答えた。
「タカハシ、おめえ統計はわかるか?」
「うーん、一応大学は経済学部で統計学は履修していたのですが、なんとか単位も取れたぐらいでいまとなってはうろ覚えですね。でも基本統計量ぐらいならなんとかわかります。平均だけじゃなくて、最頻値や中央値、分散をだすやつですよね」
「そのぐらいわかってりゃ十分よ。たしか昨日イノウエも説明していたが、FILTERは条件付き集計にも使えるって話をしてたろ。さっきのユーザーさんの使い方はさまにそれだ。SUMやAVERAGEはSUMIFSやAVERAGEIFSをつかやあいいが、用意されてるのはその程度だ。さっきは、
なるほど。Excelにはオプションのデータ分析で基本統計量を出す機能があったが、GoogleSpreadsheetsだと条件付きでそれらを関数で出すこともできるのか。おれの生前のExcel職人時代は、とにかくクライアントの要望に答えるために日別、月別、クリエイティブ別、様々な軸でいかに効率的に集計をするかということが課題だった。しかしExcelには基本統計量にとどまらずもっと高度な統計関数はたくさんある。それらを使いこなせていなかったのは思い返すと悔いが残る。おれがExcelをもっと使いこなせていれば、もっと正確な分析を提供できたかもしれない。さっきのクエストのユーザーさんは、なんのデータを分析していたのかはわからないが、おれなんかよりもよっぽど本質的に表計算を使いこなしているのだろう。考えれば考えるほど悔いが残る。そんなおれの表情を察したのか、サイトウが諭す。
「統計関数は奥が深いし、数も相当多い。基本統計ならたまに見かけるが、更に高度な検定や分布、回帰なんかはめったに見かけねえし、前にも言ったが専門のworkerに任されてるよ」
「サイトウさんは統計詳しいんですか?」
「バカ言うな、なにもわかんねえよ。おれたちworkerはSpreadsheetsを使う側じゃあもうねえんだ。ただ関数の挙動を理解して、あとは力でねじ伏せて処理すりゃいいんだよ」
身も蓋もないことを言われて、おれは少し黙ってしまった。
※今回の関数
COUNT https://support.google.com/docs/answer/3093620
MAX https://support.google.com/docs/answer/3094013
MIN https://support.google.com/docs/answer/3094017
MODE https://support.google.com/docs/answer/3094029
MEDIAN https://support.google.com/docs/answer/3094025
VAR https://support.google.com/docs/answer/3094063
STDEV https://support.google.com/docs/answer/3094054
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