第31話 崩壊

 サイトウに呼ばれて3階に行った。集計シートのはずなのでSUMIFやSUMIFS

 のはずだ、ヘマをしなければ1人で黙々と処理してもいいはずだがどうしたのだろうか。部屋に入るとREGEX関数の森だった。


「おう、すまんな。こっちもデータ貼り付けシートだったようだ」


 しまった、読み違えていた。このシートは複数のデータソースを処理しているようだ。なぜおれは勝手な思い込みをしてしまっていたのだろうか。このファイルが処理するデータは1つではない。さっきのシートはGoogle広告のデータだった。こっちはなんだYahooか?それともGoogleAnalyticsのデータか?


「おい!さっさと手伝え!」


 サイトウはトゲの処理をせずにざくざくREGEX関数を処理している。


「ちょっと待ってください。確かめたいことが…」


 おれはREGEXの森をかき分けて埋め込まれているデータを見る。YahooでもAnalyticsでもない。なにかのDSPのようだ。まずい。


「サイトウさん、やばいです。ここだけじゃ済まないかもしれません」


 ブザーが鳴る。やはり上にもデータがあったらしい。


「タカハシ、こいつはやべえぞ」


 REGEX関数たちがざわつきはじめた。


「え?これ、どうなるんですか」


 エラーも出ていないのに、REGEXREPLACEが刺毛をくねらせながら迫ってきている。


「タカハシィィ!!!逃げるぞぉぉお!!!」


 サイトウがおれの腕をつかんで駆け出す。なにかに足を取られてつまづく。VLOOKUPが脚をつかんでいる。


「ブイルックアップ!起きろ!止まるな!!」


 サイトウがVLOOKUPを処理しておれを立たせる。


「痛っ!!」


 脚をREGEXREPLACEに刺された。


「耐えろ!死にてえのか!!」


 サイトウがおれの肩を担いで言ったが。サイトウの肩にもベッタリと血がついている。


「サイトウさんも刺されてるんじゃ」


「黙って走ればかやろう!!!」


 関数たちがすぐ後ろに迫っていた。




 ##############




 目が覚めたら白いタイル張りの部屋にいた。


 ベッドに寝かされて、腕には点滴、脚には包帯が巻いてある。


 すべておれの妄想だったのだろうか。おれは仕事帰りに事故でもあって、病院で長い夢を見ていたのか。そうだ。そうに決まっている。GoogleSpreadsheetsがExcel職人の魂で動いているだなんてそんな馬鹿なことあるわけがない。




「いやー、大変でしたね」


 そういう希望的観測を、ガチャリとドアを開けて入ってきたイノウエが打ち砕いた。

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