第26話 広告業界の基本構造

 いつもは30分もかからずに到着するが、今日は到着まで1時間以上かかって現場に到着した。クエストの構造はいつもと異なる。まず入口付近に普段はない螺旋階段がある。サイトウに聞いたら複数シートをまたぐクエストはこうなのだと言っていた。


「こいつを渡しておこう」


 サイトウはおれとイノウエにショルダーバッグを渡した。中にはトランシーバー、カロリーメイト、Androidのキャラクターがラベルに書かれた水の入ったペットボトル、それからよくわからないランプとスピーカーのようなものがついた小さな丸い機械。


「そいつはセンサーだ。別の階のシートに関数がでたときにわかるようになってる。早速いくぞ。まずは下見だ」


 最初のシートにつくとセルの中にはすでに膨大なデータが浮かび上がっていた。そのわりには罫線や色は入っていない。


「ここはデータを貼り付けるシートだな」


「そのようですね」


 おれたちはキャンピングカーから金属バット、タモ網、高枝切りバサミ、それから念の為に例の警察犬訓練用の腕につけるやつを置いた。


「イノウエはここを守っとけ。関数がでたら処理しとけ。タカハシ、他の階の様子を見に行くぞ」


「やばくなったら助けてくださいね」


「おう。トランシーバー使え」


 おれとサイトウは道具の入った袋を担いで上の階に移動した。こじんまりした部屋だ。僅かだが10セルほどデータが入力されている。


「たぶんこれはマスタですね。おそらくここには関数はほぼ出ないんじゃないでしょうか」


「なるほど、助かる。この現場もおまえの前職の業界のはずだ。お前なら何シートぐらい、どんなふうに使う?」


「そうですね、今月や直近のレポートを確認するためのシートが少なくとも1つ。広告バナー別の成績確認のシートが1つ、あとは長期の月別の数字を残しておくシート、少なくともこのぐらいは作りますが、あとはなんともいえません。とはいえ10ぐらいにはおさまるんじゃないでしょうか」


「そうか。少なくはないが多すぎてつれえってこともないな。ひとしきり見て回るぞ。なにか気づいたことがあったら言え」


「わかりました」


 シートは5階まであったがいまのところほとんどデータの入力もなく、当然関数もなく平和だった。道具をいれた袋は4階に置いてきた。2階のマスタにはなにも出ないとすると集計の主戦場3-5階になるはずだからだ。


 5階:集計?

 4階:集計?※武器

 3階:集計?

 2階:マスタ

 1階:データ貼り付け


 サイトウは携帯用のホワイトボードに状況をメモし、入り口の壁にたてかけた。このおっさんは意外とマメだ。


 1階に戻ってみるとイノウエはVLOOKUPと腕相撲をしていた。

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