第39話 チームプレイ
「あのー、サイトウさん」
「ちょっと書いてるから待ってろ」
サイトウは壁の数式に集中しきっており、近づく鵺に気づいていないようだ。おれは壁を背に身構え始める。
「その、数式を書いてる場合じゃなくて…」
鵺がサイトウの背中に爪を振り下ろそうとする。
「あぶなっ」
「よっしゃ書けた!」
振り返って満足げに数式を見せるサイトウ。
空を切る鵺の爪。
肉球で汚く伸ばされ読めなくなるホワイトボードの数式。
おれ、サイトウ、鵺、全員が沈黙した。鵺が一瞬気まずそうな顔をした。
「…タカハシ、やるぞ」
「はい」
なぜか鵺も少し頷いた。合意が形成されて鵺は後ろに飛び下がって距離を置く。
「あれを処理するのはちょっと厄介だ。身体の各所で唱える関数がバラバラだし、それぞれが一発では済まない」
「はい、わかってます」
「タカハシ、おめえは後ろに回れ。尻尾のヘビ、INDIRECTは噛まれなきゃ危ないことはねえ。おれは正面で他のやつを相手にする」
相対的に見ればかなり楽な状況だ。どう考えても一番やばいのはCOUNTAの爪、それからLEFTの牙だ。すくなくともROWの胴体には何の危険もない。しかし錯覚するのはよくない。相対的に楽だからといってヘビはヘビだ。それもどっしりとした太さがあり、毒があるとかないとかわからないが、噛まれればただでは済まないだろう。
おれはゆっくりと鵺の後ろに回り込む。むこうもこちらの戦力はわかっているらしい。尻尾のINDIRECTだけがおれに関心を向け、ほかはサイトウを威嚇している。
おれとサイトウが鵺を挟む格好で身構えた時、戦いの火蓋が切って落とされた。
「うおおおおおおお!!」
「ぐるるるるるぅ!!」
「えっ!?あれ?」
鵺がサイトウに飛びかかり、サイトウはかわしつつさすまたで牽制する。おれが対峙していたINDIRECTは主体性なく身体につられておれから離れていった。心なしかINDIRECTも「あれ?」って表情をしていた。
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「グゥアウッ!グルルルルゥ。ガウッ!!!ックゥンッ!!」
飛びかかり噛み付いてくる鵺をなんなくかわし、首を後ろからさすまたで押さえ込み、サイトウはその名を唱える。
「レフトレフトレフト!」
「クゥンッ!グゥアウ!」
鵺の頭、LEFTは抵抗しさすまたをはねのける。サイトウの身体能力は異常だが、さすまたは本来、多人数で一人を抑え込むための道具だったと聞いたことがある。攻撃の道具ではない。おれもさすまたを構えているが、まるで戦力になっていない。もっともおれと対峙しているINDIRECTも振り回されてぐったりしているので戦力にはなっていない。合成魔獣というのも案外楽ではないようだ。
「ボケっとすんなさっさと終わらすぞ!後ろからも暴れないよう抑え込め!!」
「は、はい!できるだけがんばります!!」
サイトウが怒鳴りながら鵺の首から片足をさすまたでえぐる。鵺はひっくりがえり、手足をばたつかせ抵抗を試みる。いつまでももつは思えないが、おれも自分のさすまたで下半身を押さえにかかる。
「レフトレフトレフトレフトレフト!!!」
動きを封じた関数にサイトウが名前を叩き込む。LEFTは舌を出してぐったりし、ARRAYFORMULAの火の玉がふわりと出てくる。
「アレイフォーミュラ」
すかさずサイトウが処理する。
ARRAYFORMULAがセルに沈み込むと同時に、起き上がった鵺の頭からイヌの要素が消えた。これで1つ楽になるかと思ったのだが、残念ながらその頭は残るCOUNTAのトラに変化した。
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