第15話 この森ができた理由
「ファインド!レン!」
「レフト!ライト!」
おれとイノウエは順調に文字列関数たちをさばいていく。森が1セルずつ切り開かれていく。順調といえば順調なんだがなにせ数が多い。
「なかなか終わりませんね」
「なんでこんなシート作っちゃうんでしょうね。さっぱりわからない」
「そうですか?ぼくはよくこういうの書いてましたよ」
おれは木陰に佇むVLOOKUPを処理しながら答えた。
「広告のデータ処理ではよくあるんです。広告のバナーも複数の要素でできてますから」
「そうなの?」
「例えばそうですね、薬剤師の求人サイトがあるとするじゃないですか?その広告バナーの中でも、写真のモデルが男性か女性か、コピーで訴求する内容が残業が少ないことなのか時給が高いかなのか、色のパターンがどれかとか、他にもどのデザイナーが作ったものかとか、そういった複数の要素が含まれているんです」
「なるほど、それがなんでこの大量の文字列関数になるの?」
「広告配信のシステムって広告に管理用の名称をつけられるんです。その名称の付け方は会社とか人によるんですが、例えば『女性モデル1_時給コピー3_緑』とか要素をアンダースコアでつないで表現をしたりするんです。それで集計を行うExcelではその名前を分解するために文字列関数を使うんです。もちろんIDで管理して、それぞれの情報をマスタシートからVLOOKUPでひっぱったりすることもあります。あ、もちろんINDEX/MATCHでもいいです」
危なかった。仲裁するサイトウがいない今、神学論争は避けたい。
「ふーん、理由はわかりました。でもこのユーザーさん、わたしたちには不慣れみたいね。SPLITを使えば一発だし、そうでなくてもせめてREGEXEXTRACTをつかうべきよ」
「す、スプリット?レゲックス?なんですかそれ」
「あ、タカハシさんも知らなかったんですね。まだworker生活も日が浅いですもんね〜。知らなくても仕方ないですよ」
イノウエが優越感を隠しきれない顔をしている。くそ、完全に悔しい。なんなんだスプリットとレゲックスなんとか。悔しいが知らないのが良くないことだけは確かだ。教えを請うしかない。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥だ。おれはできるだけ下手にまわって尋ねた。
「すいません、その関数たちに遭遇したときにイノウエさんにご迷惑をおかけするわけにはいかないので教えていただけないでしょうか?」
「ふふ、いいですよ。でもクエストが終わってからにしませんか。ユーザーさんも待ってることですし」
たしかにそのとおりだ。まだ半分以上の文字列関数たちが残っている。GoogleSpreadsheetsに自分の知らない関数たちがいくつもあることにいらだちも感じたが同時にまだまだ探求すべきことが残っている楽しみもおぼえたのだった。
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僕はREGEXをレゲックスって読んでるんですが正しいのでしょうか。調べたらリージェックスと読むパターンもあるようです。関数を処理するときはカタカナで発音させるようにしているのですが、みんなこの読み方であってる?という不安を抱えながら書いています。
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