第12話 ここは楽しい職場
クエスト帰りの車中は気まずい沈黙に包まれていた。
普段は違う。その日のクエストでのシートの用途、使われる関数の組み合わせ、シート構成の妙。Excel職人同士、話のネタは尽きない。「あの数式の組み方には痺れたね」、「あの使い方だけはちょっと許せない」、「あのシートは別の関数を使ったほうがうまくできたんじゃないか?」。ここはGoogleSpreadsheetsの中、おれたちはそのworker、楽しい職場、Excel職人の天国。
IMAGE関数というのは鬼門だった。普段おれたちが眼にするのは主に数字、日付、ついでテキスト。テキストと言っても文章というよりは単語で、特別気に留めるような要素は殆どない。東京、広告A、山田、実質無料、おれたちは平坦な世界に生きている。しかし画像はそうはいかない。
脚立をかつぎ出してイノウエに処理させたIMAGE関数のうち、ほとんどはイノウエのお目当てのBLマンガの広告だった。ただ最後の一つは男性向けだった。それもその手のサイトでしか見ないような、なんというかどうしようもないものだった。ほんとうにもうどうしようもなかった。
その画像が出現しただけでも気まずさはひどいものだったが、サイトウの一言が状況を絶望的にした。
「ま、まあ映画でもオフィスとか更衣室にヌードのポスターよく張ってるしな、最近じゃあんまりないが職場っていうのはこういうもんじゃねえのかな。ははは…」
ポリティカル・コレクトネス。
その言葉が浮かんだが、口には出せなかった。悪気はなかったのだろう。サイトウがこの世界に来たのはもう6,7年ほど前らしい。サイトウの転生前にはポリコレなんて言葉はほとんど使われていなかった。何よりサイトウの感覚は洋画の見過ぎで狂っているのだ。不幸というほかない。
次の朝、詰め所に行くと事務員がおれとイノウエにサイトウの3日間の謹慎処分を告げた。
***********************
サイトウのいないクエスト、不安になりますね。かく言う僕もどうやって書いたものか不安です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます