第41話 相性のいい関数

 サイトウはそのままROWも処理してしまおうと手を伸ばしたが、タヌキの姿をしたROWは素早く走り去っておれたちから距離をとった。しかし所詮タヌキだ。トラやヘビ、なんならイヌよりもかわいいもんだろう。


「あとは楽勝ですね」


「いんや、そうでもねえぞ」


 距離を取ったタヌキがおもむろ後ろ足だけで立ち上がる。え?と戸惑っているとタヌキは胸の前で前足を合わせる。大きく息を吸う動作をしたのち、なんとタヌキが大きな炎を吐いた。


「うそっ」


「避けろ!!」


 おれとサイトウはそれぞれ左右に飛びのく。あやうく黒焦げになるところだったが間一髪でまぬがれた。立ち上がった俺たちの前にいたのは。袈裟を着てあぐらをかきうつむいているタヌキだった。


 すくりと立ち上がったROWはさきほどいたタヌキと同じ個体とは思えなかった。体格はほとんど人間に近く、スリムで背も高くなっている。顔つきは思慮深さと凶暴さがおりまざっていて恐怖を感じる。


 すっとそいつが右手を伸ばすと、何もない空間から錫杖しゃくじょうがあらわれた。ROWはつかんだ錫杖を前に構えた。


「言ったろ?ARRAYFORMULAは取り憑いた関数を妖怪化するんだ」


「ROWはタヌキだからそいつと相性がいいってことですか」


「そんなところだ。いくぞ!」


 サイトウとおれはさすまたを構えてROWににじり寄る。


「うおおおおおっ!!!!」


 サイトウが叫びながら突撃。さすまたでROWの胸を突くが、ROWは表情も変えずにしゃがみこんで回避。そのままサイトウに足払いをかける。カウンターを取られたサイトウが転び、ROWはそのまま錫杖を振り下ろす。


 ガシャン。カラカラ。


 サイトウは振り下ろされる錫杖を倒れたまま頭上で蹴り飛ばした。錫杖はROWの手を離れて転がっていったが。飛びのいて距離を取ったROWが手をかざすと、ふわりと浮いて手元に戻っていった。サイトウも起き上がって再びさすまたを構える。


 やばい。この戦いにおれが入っていけるイメージが全くない。ARRAYFORMULAで強化されたROWはあの異常な身体能力のおっさん、サイトウと互角にやりあっている。


 さらにROWは錫杖を持っていない左手を袈裟の懐にいれ、両端にナイフのようなもののついた密教の法具のようなものを取り出す。法具を頭上に構えると、そのまま手を放す。法具はひとりでに浮き、ゆっくりと回転をはじめた。一瞬、ROWがおれの方に目をやってニヤリと口元を緩めると、左手を前に振り下ろす。


 高速に回転する法具がサイトウの足元めがけて飛んでいく。サイトウはなんなくそれを飛んでかわすが、ROWは織り込み済みといわんばかりの表情でその左手をおれの方に振る。


「痛っ!」


 おれはなんとか体をひねったが、法具がかすった左肩からは血が出ていた。法具はそのまま勢いを止めずに飛んで行ったが、弧を描いておれの方に戻ってくる。まずい。かわし切れない。


 カランカラン。


 思わず瞑ってしまった目を開けると、法具はおれの手前で床に落ちていた。


「よそ見してんじゃねえよ」


 サイトウはROWがおれのほうに意識を向けた一瞬の隙をつき、低い姿勢からさすまたで足をはらった。姿勢を崩したROWを床に張り倒しそのまま後ろ手に固めてつぶやく。


「ロウロウロウロウロウロウロウロウ」


 ROWの口から火の玉が浮き出て、サイトウはそれを処理する。


「アレイフォーミュラ」


 ROWが沈み、辺り一面のセルがうすぼんやりと光った。おれたちはようやく鵺を処理し終えた。





※参考文献

ユリイカ 2016年7月号 特集=ニッポンの妖怪文化 『美術に現れた妖怪』安村敏信 190ページ 「狸狐図」葛飾北斎

https://www.amazon.co.jp/dp/4791703103/

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