🎮ロマンシング サ・ガ2

これまでの常識が、まったく通用しない

「私、このゲームちょっと苦手、かも」

 

 少し眠そうに後ろから見ている水無瀬さんに、思ったことを正直に言ってみた。


「この “七英雄しちえいゆう”っていうのが、敵ってことなんだよね?」


 テレビを指して聞いてみる。画面の右側には5人の仲間が、左側には“ダンターグ”と表示された大きな敵が相対している。

 “七英雄”の一人であるというこの敵は、人と馬とが合体したような姿で、大きな角が何本も生えている。味方の方は可愛らしいデフォルメの二頭身なのに、敵のグラフィックはやたらとリアルで、けっこう怖い。苦手ポイント①。


「なんか、よくわかんないまま戦うことになったんだけど……」


 そして、いまいちストーリーがよくわからない。

 主人公である皇帝は、世界の平穏のために自国の領土を広げようとする。各地のトラブルを解決したり、モンスターを退治したり、交渉したり、いろいろな手段で統一を進めていく。

 ここまでは、まだ理解できる。


「この“七英雄”って何がしたいの?」


 その名前はオープニングから出ていたので、てっきりボス的な位置づけだと思いきや、迷子を捜すイベントの途中に洞窟でばったりと出会って、なし崩し的に戦うことになってしまった。

 明らかにヤバそうなアイコンの敵キャラがうろついていたので、なんとか接触エンカウントせずにスルーしたのに、「オレを無視するな」って追いかけてきた。敵の目的がさっぱりわからない。苦手ポイント②。


「んあー、全滅したー……」


 やっぱり強くて、普通に全滅した。負けイベントというわけでもなかったみたいだ。

 全滅すると、ゲームオーバーになるのではなく、皇帝が別の人に継承されて、仲間も総入れ替えになる。アイテムやお金をロストするわけじゃないから気が楽だけど、キャラクターにはまったく感情移入ができない。苦手ポイント③。


 この『ロマンシング サ・ガ2』というゲームは、私が知っているRPGとあまりにも違いすぎる。


「このゲームはやめとく? 一応別のゲームも錦から借りてきてはいるけど」


 水無瀬さんがちょっと残念そうな顔をして言う。


「……ううん! もう少しやってみる!」


 このゲームは錦くんが特に大好きだった。私も少しくらいは面白さを理解してみたい。

 一人じゃ無理かもしれないけれど、ここには水無瀬さんがいる。


「なにかコツとか、ないのかな」


 漠然とした私の質問に、水無瀬さんはほんの少し考える。


「んー。じゃあ、さっきセーブしたところに戻って、もっかい戦ってみよっか」


「え? いまのレベルじゃ勝てないんじゃ?」


「大丈夫。勝たなくていいから」


 含んだ笑いをする水無瀬さんのアドバイスに従い、リセットボタンを押して、もう一度さっきの場所に行ってみる。

 同じように、また戦闘が始まる。戦闘の曲はすごくかっこいいんだけどな……。


「じゃ、技を使わずに普通に攻撃だけしてみて」


「え?」


 意図がわからないけれど、言う通りにしてみる。

 WP技ポイントを使わない通常攻撃は、大した威力はない。案の定“ダンターグ”にはほとんどダメージを与えられない。

 なんのためにこんなことを?


 そう思った瞬間、ピコーンと大きな音が鳴りキャラクターの上に豆電球が光る。

 新しい技をらしい。

 この『ロマサガ2』の象徴である閃きシステムだ。

 レベルが上がって新しい技を使えるようになるのではなく、このようにランダムで技を覚えていく。

 やった、と喜んでいたら、今度は別のキャラが、ピコーンと閃いた。

 その次のターンには、また別のキャラが同じように閃く。


「ええ!? どうして?」


 振り返って水無瀬さんを見る。


「敵が強いと閃きやすいんだよ。通常攻撃ならいろんな技に派生するしね」


 水無瀬さんが嬉しそうに言う。


 これは……楽しいかも!

 どんどん新しい技を閃いていく。

 キャラクター達が生き生きと動いているように見える。


「あ……でも、全滅しちゃったら意味がないんじゃ……」


 やばい。つい調子に乗って、回復を忘れて攻撃を続けていたら、もう全滅寸前になっていた。 


「大丈夫、逃げられるから」


「え? ボスなのに?」


 駄目元でLボタンを押してみる。すると、通常の戦闘と同じように“退却”のコマンドが表示された。


「逃げられるんだ……知らなかった」


 ボス戦は逃げられないと、完全に思いこんでいた。

 ボスから逃げたあと、少し距離を置いて、すぐにセーブをする。『ロマサガ2』は、どこでもセーブができるので、『ドラクエ』みたいに教会に寄ったり『FF』みたいにセーブポイントを探したりする必要がないのはとても楽だ。


「これでしばらくは戦闘が楽になると思うよ。強い敵は閃くチャンスでもあるから、意識してみるといいよ」


 強敵ほど成長のチャンス。まるで漫画みたい。


「ただ、同じ職業クラスでも、キャラクターによって閃く技が違ったりするからね。最強の技なんかは閃くキャラが限られてるから、終盤になったら仲間を選ぶときに気を付けないといけない」


「へえ。でも、どうやって選ぶの? 同じ職業だと一人しかいないよね? 仲間パーティーに加えたら外せないし」


「仲間にしたあと、LPライフポイントを0にして、死んでもらう。そしたら次のキャラが出てくるから」


「ええ……」


 水無瀬さんが物騒なことを言う。


「まあ、それは終盤の話だから、いまは気にしなくていいよ」


 キャラクターに愛着が湧くとか、そういう次元ではなかった。

 つくづく、私の持っているこれまでの常識が通用しないゲームだ。

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