🎮ファイナルファンタジーⅣ

昨日の続きから始めるかのように

 そこは機械でできた無機質な塔。

 囚われた仲間ローザを助けるため、主人公セシルパーティーがダンジョンを登っていく。

 ようやく最上階にたどり着いたとき、ローザは処刑されようとしていた。間一髪、ギロチンが落ちる寸前のところでローザを救出したセシル。そして抱き合う二人。


「うわあ……キスしてる……」


 テレビ画面を食い入るように見ながら、響子がほうけた声を出す。

 スーパーファミコンの画質は、僕からすれば懐かしいドット絵でしかない。でも、いまの響子にとってはファミコンから各段に進化したグラフィックで、より細部まで表現が可能になった最新のゲーム機だ。

 スーパーファミコンを初めて見たとき、言葉にならないくらいにワクワクした。あのときの気持ちをもう一度感じられるのは、少し羨ましくもある。


「あ、いまカインが目をそむけた、よね」


 画面を凝視したまま、響子が僕に聞く。

 たしかに、抱き合う二人を他の仲間が見守るなか、竜騎士カインだけはそっぽを向いている。

 よくまあ細かいところに気が付くものだ。そんな細かな演出があったなんて、いま初めて知った。


「カインもローザのことが好きだから、そりゃ見たくないだろうね」


「目の前で好きな人にイチャイチャされて……可哀想」


 小学生のころの響子は黙々とプレイしていたような気がするが、今回の響子はやたらとよく喋る。

 僕のせいで喋るのか、“錦”のせいで黙っていたのか。どちらなんだろう。


 シーンは進み、このダンジョンのボス風のバルバリシアが襲い掛かる。

 正気に戻った竜騎士カインと、助け出した白魔導士ローザがパーティーに加わったとはいえ、バルバリシアはなかなかの強敵。かなり苦戦していて、全滅寸前だ。


「ねえ、この人かなり強くない? 水無瀬さん、これって倒せるの? 負けイベントじゃなくて?」


「カウンターがあるから、下手に攻撃したら反撃くらうよ。ヤンは“ためる”してから攻撃、バルバリシアが風をまとったらカインの“ジャンプ”でバリアを解除。セシルも回復役にまわって、ローザが“ブリンク”をかけたら物理攻撃を2回無効にできるから、かなり楽になる」


「おお、ありがとー!」


 いま響子が遊んでいるのは『ファイナルファンタジーⅣ』。もともとグラフィックに定評のあったファイナルファンタジーシリーズ。その四作目が、ついにスーパーファミコンで発売されたもの。美麗なグラフィックとシリアスなストーリー。発売当時、友達の間ではこの話題で持ち切りだった。


 それにしても、さっき攻略法を聞かれたとき、すらすらと自分の口から出てきたのには驚いた。忘れたと思っていても、子供の頃の記憶は心の奥にしまい込まれているだけなのかもしれない。響子がそうであるように。


「わあ! 倒せた!」


 満足したように響子が嘆息する。


「ありがとー! 助かったよー!」


 ようやくひと段落したようで、セーブをしてスーパーファミコンの電源を切る。

 長いダンジョンだった上にボス戦も続いたので、さすがに少し疲れたようだ。


 一昨日、響子がドラクエ4をクリアしたので、次のゲームを持ってくる約束を果たすため、源先生から再び響子のアパートの鍵を借り、スーパーファミコンとゲームソフトを何本か持ってきた。

 先生と相談し、スーパーファミコンを見せる前に、一日だけ間を置くことにした。

 その一日の間は、ゲーム機を触らせず、学校の宿題という名目で小学生の問題集をやらせたらしい。


 そして、今日。

 スーパーファミコンと『ファイナルファンタジーⅣ』を見せたときの響子の様子は、まさに狂喜乱舞という表現がぴったりだった。

 ひとしきり大喜びしたあと、ソフトを起動してセーブデータを確認したとき、こちらが何も言わずとも、響子は自然に“セーブ2”を選んだ。

 まるで昨日の続きから始めるかのように、セーブデータの途中からでも気にすることなくプレイを始めた。響子のなかでは矛盾無く繋がっているらしく、特に混乱をしている様子もなかった。


 そして、予想していた通り、響子の学年もゲームの時期に合わせて上がっていた。

 着実にレベルが上がっていくように、さっきのように発言も時折みられるようになった。


 いまの響子は小学5年生。まだ先は長い。

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