今度はちゃんと、エンディングまで
響子の同僚二人が鷲尾さんを連れて会社へ戻った。
病院を出る際、鷲尾さんは最後にぽつりと、こう言った。
あのパスワードの数字の意味はなんですか。
響子が一番好きなゲームのなかの有名なバグの数字だ、と僕は答えた。
それを聞いた鷲尾さんは何故か笑い、やっぱりあなたは手強かった、とだけ言った。
そのあとはもう一言も喋らず、ただ茫然と二人に付いていった。
響子も同行しようとしていたが、高熱を出していたため、源先生が引き留めた。
急に記憶が戻った反動かもしれないから安静にした方がいい。先生はそう言っていた。
そして今、響子の病室で二人きりとなった。
響子の記憶が戻ったら、話したいことも伝えたいことも、いっぱいあったはずなのに、いざこうしてみると何を言えばいいのかわからない。
寝込む響子の額に、絞った濡れタオルを載せながら、今日の出来事を振り返る。
響子を守るつもりが、結局響子に守られてしまった。僕が思っていたより、響子はずっと強かった。
「錦くん……ありがとう」
眠そうな目をうっすらと開けて、響子が言った。
「気にしなくていいよ。これも仕事のうちだし」
「ううん。……ずっと、私のためにいろいろしてくれて……ありがとう。それに――」
熱で火照っているのだろうか。響子の顔が赤く染まっている。
「私の“ホーリー”を発動させてくれて、ありがとう……。やっぱり、錦くんはクラウドだ」
「ん? どういう意味?」
「……準備したのにどうしても送れなかったメール、錦くんが送ってくれたんだよね。なんか私、エアリスみたいだなって」
「ああ、『FF7』の話? ……僕はまだ途中までしかやってないんだよ。お前がメモリーカード持ってっちゃったからさ」
「あ、そっか。……ごめんね」
響子が布団に半分顔を隠したまま、申し訳なさそうな表情を見せる。
別に責めたつもりはなかったのだが、つい子供みたいな言い方をしてしまった。
そう、メモリーカードだ。
あのときのメモリーカードを持ったままでいてくれたから、いまこうして再会することができた。
ちゃんと、言葉にしよう。もう二度と、後悔しないように。
「ほんと、おかげで僕はずっと『FF7』できなかったんだよ」
「うぅ……ごめんって」
「だからさ……また一緒にやろう。今度はちゃんとエンディングまで、ずっと」
僕の精いっぱいの言葉を聞いた響子は、布団から顔を出して嬉しそうにこう言った。
「うん……。ずっと一緒にしようね。もう一度、つづきから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます