〜エンディング〜

エンディングの、そのあとも

「そういや、一つ謝らないといけないことがあった」


「え? どしたの、突然」


 響子の部屋で『FF7』の続きを一緒にやっていると、ふと思い出した。

 あのときのことを考えれば仕方なかったとはいえ、プライバシーの侵害に違いはない。


「日記、っていうのかな。CD-Romに保存してたゲームの感想みたいなやつ、勝手に見ちゃったんだよ。ごめん」


「あ、なんだ。そんなことかー。もっとすごいことかと思った」


 朗らかに笑いながら響子が言う。


「私のパンツを漁った、とか。それこそクラウドみたいに」


「あ、いや、それは」


 クラウドが回想のなかでティファの部屋のタンスを勝手に開けて、ティファから怒られていた場面が脳裏に浮かんだ。


「あはは、冗談よ。先生から頼まれて私の着替えを持ってきてくれたんだよね。あのときは、いろいろ本当にありがとね」


「別にいいよ。僕がしたくて、やったことだし」


「……その言い方、ほんとに錦くんって感じで良いなあ」


 僕の顔を見ながら、しみじみと響子が言う。

 妙に恥ずかしくなったので話題を逸らそう。


「そういや、ここがラストダンジョンなんだよな」


「うん、そうだよ。ここでボス倒したらクリアだね」


「そっか。……クリアしたら、次はどうしようか」


 想い出のソフトがいよいよ終わってしまう。

 そのことに、少し寂しさを感じる。

 

「大丈夫。めっちゃ強い隠しボスがいるからね。エンディングのあとも、まだまだやることたくさんあるよ」


 大丈夫。響子は、そう言った。

 この寂しさを抱えているのは響子も同じなのかもしれない。


 だとしたら、僕は――。


「……じゃあさ、その隠しボスも倒したら、今度は僕のゲーム機を持ってくるよ。最近のゲームも面白いのたくさんあるからさ」


 これまでの想い出だけじゃない。

 これからの想い出を一緒に作っていこう。

 いまの僕たちなら、それができるのだから。


 響子の弾んだ返事に合わせて、僕はコントローラーのボタンを力強く押した。



 ≪ THANK YOU FOR PLAYING! ≫

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初恋ロールプレイング【はじめから ☞つづきから】 穂実田 凪 @nagi-homita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ